23話 魔銃の特性

――両親の元から去った後、カノンは暗殺者として生きていくしか道はなかった。彼女は最初は魔銃の力を利用して冒険者や傭兵になろうかと考えたが、彼女自身は別に特別な力を持っているわけではなく、魔銃がなければ彼女は戦う事はできない。


仮に冒険者や傭兵として活動すれば変わった武器を扱うカノンの存在は有名になり、他の者に目を付けられてしまう。もしもカノンの魔銃を狙う輩が現れ、魔銃を奪われた場合は彼女は何もできない。



『渡さない……これだけは渡さないわ』



魔銃を奪われる事を極端に恐れたカノンはその後、盗賊紛いの行動をして商団から金を巻き上げ、時には魔石弾の材料となる魔石を盗み出す。そんな事をすれば当然だが国の兵士に目を付けられるが、運よく彼女の噂を聞きつけて闇ギルドが接触を図る。



『お前が魔銃使いのカノンか……噂は聞いているぞ。どうだ、うちで働いてみないか?』

『何よ、あんた等……』

『我々は黒牙だ……名前ぐらいは聞いた事があるだろう』

『あの闇ギルドの……!?』



カノンの元に訪れたのは獣人国に存在する闇ギルドの中で最も規模が大きく、そしてシバイ大臣とも繋がりがある闇ギルドだった。カノンは闇ギルドに暗殺者として勧誘され、彼女のその後は暗殺者として生きていく。




暗殺という目的の場合、カノンが扱う魔銃の最大の利点は「速射性」に優れている事であり、カノンが使用する魔銃は殺傷能力が高く、対人戦で絶大な効果を発揮する。


例えば魔術師の場合は攻撃を行う際は杖や魔法腕輪を利用し、砲撃魔法や広域魔法のような強力な威力を誇る魔法を発動する場合、大抵の人間は「詠唱」を行う。王国の魔導士の位に就くマホやマジクでさえも強力な魔法を扱う際は詠唱を行わなければならない。


しかし、カノンの所有する魔銃の場合は違う。事前に魔石弾を弾倉に装填していれば彼女は瞬時に発砲させる事ができる。更に魔石弾に余裕があれば連射できるため、この点が対魔術師との戦闘で大いに役立つ。



『な、何だ貴様は!?私を誰だと思っている!?』

『いいから、杖を構えなさいよ』

『くっ、馬鹿にしおって!!ファイ……』

『遅過ぎよ』

『ぐはぁっ!?』



魔術師の暗殺を始めて依頼された時、カノンは相手が杖を構えて魔法の詠唱を行おうとした瞬間、腰に差していた魔獣を引き抜いて即座に魔石弾を発射させて決着をつけた。


相手の魔術師は魔法を発動させる暇もなく、カノンの撃ち込んだ火属性の魔石弾をまともに受けて爆発して死亡した。この時からカノンは魔術師が相手ならば自分は無敵だと確信する。



『貴様!!この俺を誰だと思って……ぎゃああっ!?』

『おのれ、人間如きが……ぐああっ!?』

『この俺様を誰だと……うぎゃあああっ!?』

『……何よ、口ほどにもないわね』



その後もカノンは名のある傭兵や冒険者と戦った事もあるが、どんな相手だろうと彼女が魔銃を撃ち込むだけで決着がついた。この時からカノンは改めて魔銃の力の凄さを知り、相手が火竜のような化物ような強さを誇る敵でなければ自分に勝てる存在はいないと思った。


魔術師以外の相手にも魔銃は通じると確信したカノンは暗殺者として生きていき、ある意味では自分の夢を叶えた。細工師として親が決めた人生を生きるよりも彼女は暗殺者として刺激的な生活を送る事に満足していた――






――そして時は現代へと戻り、彼女はナイが宿泊しているという噂の「白猫亭」へと辿り着く。彼女の目的は「白猫亭」に赴くはずのナイを狙い、始末するのが彼女の目的だった。


大胆にも暗殺対象が宿泊する宿屋にカノンは乗り込み、暗殺対象が現れた瞬間に魔銃で狙い撃つつもりだった。場合によっては魔銃で遠くから狙撃する事も考慮し、とりあえずはカノンは白猫亭に泊まるために足を踏み入れる。



「へえっ……思っていたよりも立派な建物ね。これは壊しがいがありそうだわ」



カノンは白猫亭を見上げて笑みを浮かべ、仮にこの建物に自分が魔銃を発砲した場合、どうなるのかと考えながらも白猫亭へ足を踏み入れる。情報によれば暗殺対象のナイという少年はよくこの宿に出入りしていると聞いており、彼女は早速に宿屋で手続きを行おうとした。


だが、彼女が宿屋に入り込もうとした瞬間、驚くべき事に暗殺対象のナイが出てきた。最初にナイの顔を見た時はカノンは違和感を抱いたが、すぐに事前に渡された暗殺対象の似顔絵を思い出す。



「じゃあ、今夜もまた来るよ」

「ええ、モモも喜ぶと思うわ」



ナイは宿屋の仮の主人であるヒナに見送られ、扉を通り抜けて出て行こうとした。しかし、この時に彼は自分の前で驚いた表情を浮かべるカノンに気付き、不思議そうに首を傾げる。

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