20話 英雄を恐れよ
「貴様!!あのガーゴイルを作り出すのにどれだけの時間を費やした!!前に視察に赴いた時、貴様は言っていたではないか!!このガーゴイルを倒せる人間などいないとな!!」
「ええ、私もそう思っていました……しかし、あの英雄の力は私の想像を遥かに超えていたのです」
「では聞くが、その英雄はどのような能力を持っている!?どんな魔剣を使った、魔法剣の使い手か!?」
「はっ……私も独自に調査してまとめた資料がこちらです」
リョフイもまさか本当に手ぶらで戻る事はできず、王都の民の噂を聞いた限りで集めた情報を資料にまとめてシバイに提出する。その資料を見てシバイは記されている内容に唖然とした。
――王都に暮らす人々から聞いた情報によれば、貧弱の英雄は闘技場にて数々の魔物を屠り、グマグ火山に誕生したゴーレムキングと火竜の討伐のために派遣された際は火竜に深手を負わせ、ゴーレムキングに止めを刺した。
その後もイチノ地方で出現したゴブリンキングの討伐に参加し、この時にもゴブリンキングを打ち倒す。その後も白面と呼ばれる王国の暗殺者組織を打ち破り、更には王都で起きた事件でも活躍し、最終的には王都で突如として飛来した火竜を打ち倒したと書かれていた。
内容が内容だけにまるで御伽噺を聞かされている気分だが、これらの鉱石は王国側は認めた内容であり、実際に火竜の死骸は大勢の民衆が確認している。貧弱の英雄がこの国に居る限り、この国は安泰だと信じる人間も多い。
「ば、馬鹿なっ……これは、事実なのか?」
「私も正直に言えば耳を疑いましたが、どうかこれをご覧ください」
「何だ、それは?」
「こちらは王都に立ち寄った時に手に入れた代物です」
リョフイがシバイに差し出したのは「盾」であり、その盾は円盤のような形をしていた。シバイは不思議に思いながらも盾を受け取ると、すぐに盾を見てある事に気付く。
「これは……鏡か?」
「はい、王都のお土産屋にて大量にこの盾が置かれていました。この盾は貧弱の英雄が所有を許された反魔の盾を模した土産の品です」
「……どうやら随分と人気があるようだな」
盾は鏡張りであり、シバイは自分の移った顔を見て渋い表情を浮かべる。反魔の盾の管理を許された人間が居るという話は聞いているが、まさかその人物の所有物というだけでこんな模造品が販売されるほどに人気があるとは思いもしなかった。
他にもリョフイは王都へ赴いた時に集められた情報は全て話すが、結局のところは重要な情報は殆ど集める事ができなかった。王都の警備は以前よりも強まっており、更に警備兵だけではなく、黒面という存在が居たことを話す。
「現在の王国は黒い面を被った暗殺者共を従えています。恐らく、奴等の正体は白面……だから今まで我々が送った密偵は始末されていたのでしょう」
「何だと……そうか、道理で情報が集まらぬわけだ」
シバイがわざわざ王都にまで腹心のリョフイを派遣させたのは王都の情報を収集するためだが、そもそもこんな危険な役目を本来ならば腹心のリョフイに任せる事ではない。
しかし、ある時を境に王都に派遣させた密偵は一人も残らず戻る事はなく、情報を掴む事ができなかった。そこで彼は王都には何度も出向いているリョフイを派遣させ、彼に情報収集を任せるが、結局のところは失敗してしまう。
「結局、何も有益な情報は掴めなかったという事か……」
「いいえ、それは違います……王国には貧弱の英雄がいる、それだけ知れただけでも私は価値があったと思います」
「もういい、下がれ」
リョフイの言葉を聞いてもシバイは言い訳にようにしか聞こえず、彼を下がらせて自分は椅子に座り込む。結局は時間と金を費やして得た情報は当てにならず、彼は天井を見上げながら呟く。
「貧弱の英雄、か……」
シバイはリョフイの最後に告げた言葉を思い返し、王国の最大の脅威を知る事ができたのは幸運だったのかもしれない――
※これにて貧弱の英雄は一旦完結です。続きを書くかどうかは分かりませんが、とりあえずは終わりとさせていただきます。
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