19話 英雄の実力
「シャアアッ……!!」
「ガーゴイル!?何をしている!?」
「ガーゴイルか……なら、これだけで十分かな」
少年に対して警戒心を剥き出しにするガーゴイルを見てリョフイは驚き、その一方で少年の方はガーゴイルの姿を見ても全く動じない。背中に差してある大剣の一振りを抜くと、ガーゴイルに対して刃を向けた。
ガーゴイルは少年の姿を見て警戒しながらも、主人を守るように教育を受けてきたガーゴイルに逃げるという選択肢はない。ガーゴイルは少年に向けて踏み込み、鋭い爪を繰り出す。
「シャアアアッ!!」
「……ふんっ!!」
「アガァッ!?」
「ばっ……馬鹿なっ!?」
しかし、踏み込んできたガーゴイルに対して少年は頭に手を伸ばすと力ずくでガーゴイルを押しとどめる。リョフイが鍛え上げたガーゴイルの力はただの人間が止められるはずがないが、少年の場合は片手で顔面を掴んでガーゴイルを持ち上げた。
顔面を掴まれたガーゴイルは咄嗟に引き剥がそうと少年の腕を掴むが、万力の如き握力で握りしめられ、とても抜け出す事ができなかった。そんなガーゴイルに対して少年は力ずくで投げ飛ばす。
「でりゃあっ!!」
「シャアアッ!?」
「ガーゴイル!?」
地上へ向けてガーゴイルは投げ飛ばされ、その光景を見たリョフイは驚愕の声を上げるが、地上に衝突する寸前にガーゴイルは翼を広げて飛翔する。
空を飛んだガーゴイルは建物の上空にまで浮き上がると、自分を力ずくで叩き落そうとした少年に向けて今度は加速した状態で突っ込む。
「シャギャアアッ!!」
「ふうっ……」
迫りくるガーゴイルに対して溜息を吐きながらも少年は大剣を横向きに構える。その構えを見た途端にリョフイは嫌な予感を覚え、一方で少年はガーゴイルに向けて大剣を振り払う。
「だああっ!!」
「ギャアアアッ!?」
「馬鹿なっ!?」
少年が振り払った大剣の一撃によってガーゴイルの肉体が上半身と下半身に切り裂かれ、その光景を見ていたリョフイは驚愕の声を上げる。彼が連れてきたガーゴイルの肉体の硬度は並の岩石の比ではなく、魔法金属のミスリルにも匹敵する。
彼が作り出した最高傑作のガーゴイルを少年は意図も容易く切り裂き、その直後に建物の屋根の上に少年以外の人影が現れる。その正体はシノビとクノであり、二人はナイの元に移動すると礼を告げた。
「助かったでござるナイ殿」
「ここから先は任せろ」
「じゃあ、お願いします」
「ナ、ナイ……だと!?」
リョフイはナイという言葉を聞いて目を見開き、その名前は何度も耳にした。噂によれば「貧弱の英雄」と呼ばれる存在であり、その英雄の正体がこんな少年だとは思わなかった。
ナイ、シノビ、クノと向き合ったリョフイは顔色を青くさせ、このまま捕まってしまえばどうなるか分からず、どうしても彼は逃げなければならなかった。だが、この時に彼は上半身だけとなったガーゴイルに視線を向けると、咄嗟に彼は魔笛を吹く。
「起きろっ!!」
「シャアッ……!?」
「なっ!?まだ動けたのか!?」
「逃さん!!」
「投っ!!」
ガーゴイルは胴体を切り裂かれようと経験石が無事ならば動けるため、上半身だけの状態のガーゴイルはリョフイの元へ向かう。その光景を見てシノビとクノは攻撃を仕掛けるが、それらを交わしてガーゴイルはリョフイの背中から抱きかかえると空を飛ぶ。
咄嗟にナイ達は後を追いかけようとしたが、ガーゴイルはリョフイを抱き上げた状態で空を飛び、下手に攻撃を仕掛ければリョフイは地上に落ちて死んでしまう。そう判断したナイは攻撃はできず、その代わりにシノビとクノが後を追う――
――結局はリョフイは追跡を逃れて逃げ切る事はできたが、肝心の王都の調査は碌に行えずに戻ってきた。顔を知られた以上はリョフイも迂闊に行動はできず、情報屋に関しても見つからずに結局は退散するしかなかった。
同行させていた部下を失い、操っていたガーゴイルも追跡を撒く途中で死んでしまう。それでもリョフイは獣人国へ帰還する事ができたが、報告を受けた大臣はシバイは怒りの表情を浮かべた。
「……それで貴様はのこのこと戻ってきたというのか、何の情報も得ずに!!」
「もうしわけありません、シバイ様……」
「おのれ……!!」
シバイはリョフイの報告を聞いて結局は彼はわざわざ王都にまで訪れたにも関わらず、収穫も殆ど無しでしかも持って来た荷物も部下も失った事を意味する。それだけならばともかく、彼が育成していたガーゴイルを失った事に激怒する。
リョフイにはガーゴイルの研究を行わせ、いずれ訪れる王国との戦争の際には魔物を戦力にさせるための実験を行っていた。そしてリョフイが連れたガーゴイルは完璧に彼の指示に従う最高傑作だったが、その最高傑作を破壊された事を知って叱りつける。
※いつもの調子で間違えて4話投稿しちゃいました(;´・ω・)
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