17話 リョフイの恐怖

「おのれ、何が上級回復薬だ!!」

「リョフイ様、落ち着いて下さい!!」

「やかましい!!」



商人としての誇りを持っていたリョフイだったが、王都の何処の店も彼が持ち込んだ商品には目もくれず、彼は怒りを抑えきれずに宿泊した宿屋で当たり散らしてしまう。


ちなみに彼が泊まった宿屋は一般区の中ではかなりの人気を誇り、名前は「白猫亭」という。リョフイはこの宿屋に例の噂になっている「貧弱の英雄」という存在が出入りしていると聞き、その正体を確かめるために大胆にも宿屋に泊まっていた。



(くそ、落ち着け……ここへ来た目的はただの情報収集だ。回復薬の取引など二の次だ)



リョフイとしては滅多に訪れられない王国の王都へ赴き、取引を成功させて大金を得ようと考えていたが、これでは計画が台無しである。だが、今回は持ち込んだ商品が悪かっただけであり、彼は帰国する前に何としても上級回復薬の製作方法と例の「英雄」の調査を行う事にした。



「お前達は急いで例の情報屋を探せ。ネズミという女だ、奴ならば何か知っているだろう」

「は、はい。分かりました」

「儂はここへ残って英雄が戻るのを待つ……どんな小僧か顔を確かめなければな」



表向きは使用人として同行させていた配下にリョウイは情報屋を探す様に指示を出す。だが、彼の誤算は既に情報屋のネズミは亡くなっている事を知らず、そもそも今の王都には情報屋の類を見つけ出すのは不可能に近い――






――時刻は夕方を迎え、一向に戻ってこない配下にリョフイは疑問を抱き、情報屋を探し出すだけでどれほどの時間をかけるつもりかと思った。しかし、夜を間もなく迎える頃に配下達は戻ってきた。



「リョ、リョフイ様……」

「申し訳ございません……」

「お、お前達……何だ、その恰好は!?」



情報収集に向かわせた配下達は戻って来た時は酷い恰好をしており、まるで強盗にでもあったかのようにボロボロの状態だった。彼等は獣人国の密偵の中でも腕利きの暗殺者でもあり、そんな彼等が傷だらけの姿で戻ってきた事にリョフイは戸惑う。



「こ、この国は危険です……すぐに逃げましょう」

「ど、どういう意味だ?」

「情報収集を行っていたら、急に黒い仮面の連中に襲われ……逃げるのが精いっぱいでした」

「直にここにも奴等が訪れるかもしれませぬ……どうか、お逃げ下さい」

「お、お前達!?」



リョフイの配下は報告を終えると倒れ込み、慌てて彼等の様子を調べたリョフイだが、どうやら彼等は死んだ様子はなく、首元の方に針が撃ち込まれていた。この針に痺れ薬か何かが含まれていたらしく、彼等は身体が痺れて動けないだけの様子だった。


痺れ薬で動けなくなった配下達を見てリョフイは危機感を抱き、急いで彼は自分だけでも逃げようとした。しかし、部屋の外に出ようとした時に彼は思いもよらぬ人物と再会した。



「あ、貴方は!?」

「なっ……お、お前は!?」

「ノイ君、この男の顔に見覚えがあるのかい?」



既に部屋の外にはバーリの所で働いていたノイとアルトの姿が存在し、更に二人以外にもシノビとクノ、更にはバルとモモとヒナの姿があった。ここでリョフイは油断してしまい、部屋で過ごしていた時に化粧を落としていた事を思い出し、彼の素顔を見たノイはリョフイの正体を見抜く。



「ま、間違いありません!!バーリと取引を行っていたのはこの男です!!」

「ぐっ……な、何故貴様がここに!?」

「このノイは少し前にうちに入った従業員でね。それであんたの顔を最初に見かけた時に違和感を抱いてあたし達に報告してくれたのさ」

「僕がその話を聞いて姉上に頼んでシノビ君とクノ君に協力してもらい、監視させていたんだ。そしたら驚く事に君の所の使用人が情報屋を探しているそうでね、怪しいと思って彼等に対処して貰ったんだ」

「中々の手練れだったが、我々の敵ではない」

「その通りでござる」

「ぐぅうっ……!!」



リョフイの目の前でシノビとハンゾウは吹き矢を取り出し、それを見たリョフイはまんまと自分が嵌められた事を知る。しかし、まさかバーリの元で働いていたノイがたまたま泊まった白猫亭にいるなど彼も予想さえできなかった。


ノイが白猫亭に働き始めたのは偶然であり、実を言えば彼女は現在は家族と夫と共に王都で暮らしている。理由としてはリョフイの顔を知るのは彼女だけであり、アルトが白猫亭の主人を任されているヒナに頼んで雇ってもらう。


白猫亭に赴いた時にリョフイは気付かなかったが、実はこの時にノイは彼の顔を見た時に違和感を抱き、すぐに他の人間に相談を行う。その結果、リョフイの行動は監視され、彼が連れてきた使用人の怪しい行動を見抜いたシノビとクノはすぐに他の人間に報告を行い、この場所に全員が集まった。

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