15話 上級回復薬の大量生産

――時は遡り、商人へと偽装したリョフイは王都へ赴いて調査を行う。商人といってもバーリと接してきたときのような闇商人ではなく、獣人国で栽培を行っている薬を取り扱う商人として赴いた。


バーリが捕まったという情報は彼の耳にも届いており、念のために変装の技能を扱う人間に化粧をしてもらい、別人のように化けてから王都へ赴く。だが、到着早々にリョフイは思わぬ事態に陥る。



「えっ……ど、どういう意味ですか?」

「だからさ、悪いんだけどあんたの所とは取引できないよ。わざわざ獣人国まで来てくれたみたいで悪いんだけどね……悪いけどこの程度の薬なら買う必要もないんだよ」



リョフイは持参したのは獣人国で生産された回復薬を販売しようとしたのだが、薬屋に赴いて早々に彼は取引を断られてしまう。彼は戸惑い、少なくとも彼が持参した回復薬の類は獣人国が作り出せる最高品質の薬品だった。



「お、お待ちください!!この薬は我が国で作り出した最高品質の薬です!!」

「あ〜……半年ぐらい前に来てくれたら買っていたかもしれないね。けどね、王都うちではもう普通の薬は扱わないんだよ」

「ど、どういう意味ですか!?」



店主はリョフイの話を聞いて困った表情を浮かべ、リョフイとしては本来の任務は王都の調査であるため、別に薬の販売に拘る必要はない。しかし、商人としてリョフイは自分の品物を取引しない店主の言い分を聞かずにはいられない。


納得しないリョフイに大して薬やは仕方なく彼の前に1本の薬を置く。それを見た途端に優れた商人であるリョフイは一目見ただけで彼がおいたのは只の回復薬ではない事を見抜く。



「こ、これは?」

「うちが扱っている「上級回復薬ハイ・ポーション」と呼ばれる代物だよ。今の王都ではこの薬が主流なんだ」

「上級回復薬……!?」



上級回復薬の名前はリョフイも聞いた事があり、数年前ほど前から販売されている代物である。製作者は魔導士のイリアであり、この上級回復薬は普通の回復薬よりも効果が高い事で有名だった。


だが、上級回復薬は素材の調達などの問題で普通の回復薬よりも高級品として扱われていたはずだった。しかし、店主によると半年ほど前から王都では普通の回復薬から上級回復薬の販売が主流になったという。



「いや、実は半年前にイリア様がこの上級回復薬の大量生産を行える方法を発見してね。その製作方法を後悔してくれたのさ、お陰で王都では上級回復薬が流通されて普通の回復薬なんて以前の半分以下の値段で売られる始末だよ」

「そ、そんな!?」

「魔物による被害も未だに増え続けているし、店としては効果が高い薬が大量に手に入るのなら有難いだろう。だから、悪いけどあんたの所の回復薬を輸入する理由はないわけ」

「…………」



リョフイは商談を断られた事に衝撃を受け、彼は上級回復薬を見つめて唖然とする。そして上級回復薬の効果を確かめるため、振るえる指で蓋を開いて中身を飲む。


上級回復薬の効果は素晴らしく、一滴ほど飲んだだけでリョフイの長旅の疲れが一気に吹き飛び、彼は自分の身体の異変に気付いて戸惑う。



「し、信じられない……」

「凄い効果だろう……天才だよ、イリア魔導士は」

「こ、この上級回復薬の製作方法は……」

「教えた所であんた等の国では製作は不可能だよ。こいつの製作には特別な素材が必要でな、それはあんたらの国では用意できない」

「何故!?その素材とはいったい……」

「……取引は終わりだ、帰ってくれ」



リョフイは上級回復薬の効果を知って何としても製作方法を知りたかったが、店主としても大切な商品の作り方を他国の商人に教えつもりはなく、彼にお引き取りを願う――






――そのあともリョフイは商業区中を回って回復薬の取引を持ち込むが、全て断られてしまった。理由としてはリョフイの用意した回復薬は普通の回復薬と比べれば少しだけ効果が高い程度であり、上級回復薬には及ばない。


上級回復薬程度の効果を見込めない回復薬ではわざわざ取引を行う商人はおらず、リョフイの人生の中で初めて彼は商売を失敗してしまった。





※体調も良くなったのでなんとか更新できました。ですが、明日からは1日3話投稿です。

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