14話 英雄の秘密

――火竜の首が送り届けられてから更に月日が経過し、やっとシバイの所に王国へ派遣した密偵が戻ってきた。予定よりも大分遅く帰還してきた彼等に対してシバイは眉をしかめながら王国の内情を尋ねる。



「随分と遅かったな……今まで何をしておった」

「申し訳ございません……思っていた以上に王国の警備は高く、王城へ侵入する事は不可能でした」

「何だと……?」



シバイが密偵に派遣したのはかつてバーリと取引を行っていた商人であり、元々彼の正体は商人などではなく、シバイに仕える配下だった。彼は20年以上もシバイに仕えており、シバイが最も信頼している人物といっても過言ではない。


男の本当の名前は「リョフイ」この男は元々は本当の商人だったのだが、ある時にこの国では流通が許されていない品物の取引を行い、そのせいで捕まってしまった。しかし、彼の才能を見抜いたシバイはリョフイの罪を特別に免除し、彼を自分の元で働かせた。


リョフイは商人としての才能を生かし、表向きは商人として振舞わせ、王国の大商人であったヨク・バーリと裏取引を行う。バーリを利用した理由は彼から大金を巻き上げ、王国の内情を知るためである。


但し、実際の所はバーリの後ろ盾である宰相と繋がりを持つためにリョフイは派遣され、結果的にはリョフイの後ろ盾であるシバイは彼とバーリを利用してシンと交渉を行う。つまり、バーリもリョフイはシンとシバイが繋がるために利用された駒に過ぎない。



「お主程の男がわざわざ王都まで出向いて何も収穫はなかったとは……」

「お待ちください、確かに王城へ侵入する事は叶いませんでしたが情報は入手してきました」

「ふむ……では報告しろ」



シバイはリョフイを派遣したのは王国の詳しい内情を知るためであり、彼からの報告を聞く。リョフイは王国に赴いた後、彼なりに調べた事を伝えた。



「私が調べた限り、やはり王都に火竜が襲来したという話は事実の様です。未だに王都では復興作業が行われ、火竜が暴れた痕跡は残っておりました」

「そうか……だが、どうやって彼奴等は火竜の討伐を果たした?その時はもうマジク魔導士は亡くなっているはずだが……」

「はい、実は火竜との戦闘を目撃した一般人に話を伺ったところ……どうやら火竜を倒したのは「貧弱の英雄」と呼ばれる少年のようです」

「貧……弱?」



リョフイの言葉を聞いた時にシバイは何を言っているのかと唖然とするが、すぐにリョフイは説明を付け加えた。



「貧弱と言いましても言葉通りの意味ではなく、どうやらその少年が持つ技能の事をさしているようです。シバイ様は忌み子の事を知っておりますか」

「忌み子?」

「我々の国では呪い子と呼ばれる存在です」

「ああ、なるほど……」



獣人国では「忌み子」は「呪い子」と呼ばれており、名前の由来は呪いのようにしか思えない能力を覚えて生まれた子供という意味として使われ、王国よりも扱いが酷かった。


王国では忌み子が誕生した場合は陽光教会で保護されるが、獣人国の間では呪い子が生まれれば即座に国外追放される。当然だが呪い子を匿う事も庇う事も許されず、仮に王族の子供であろうと呪い子だと判明すれば国外追放は免れない。


しかし、王国と違って獣人国では呪い子は滅多に生まれず、この数十年の間に呪い子が誕生したという記録はない。だからこそ呪い子という存在自体も忘れかけられているが、リョフイの調べた限りではナイは獣人国では呪い子として認識される存在だという。



「貧弱の英雄は名前の通りに「貧弱」と呼ばれる技能を習得して生まれてきたようです。しかし、実際の所はその実力は非常に高く、噂によれば王国騎士団の団長や副団長をも凌駕する実力を持つと言われております」

「馬鹿な……それは確かなのか?」

「過去に貧弱の英雄を戦う姿を見たという者が多数おります。どうやらその英雄は王都の闘技場でも度々出場しており、圧倒的な力で対戦相手や魔物を蹴散らしているそうです」

「お主はその貧弱の英雄とやらが戦っている姿は見たのか?」

「いえ……ですが、貧弱の英雄は王族からも気に入られ、あの伝説の反魔の盾を所有しているそうです。二つの大剣型の魔剣を扱い、更に数々の魔物を屠ったと語られております。そして火竜の討伐を果たされたのも英雄のお陰だと人々は噂しております」

「馬鹿な……呪い子が火竜を?」



シバイはリョフイの話を聞かされても納得ができず、彼からすれば呪い子が火竜という強大な存在を倒せるとは到底思えなかった。しかし、リョフイは実際に王都に出向き、人々が貧弱の英雄を褒め称える光景を見てきた事をはっきりと告げた。




※体調の問題で今日はここまでです

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