13話 計画の破綻

「――おのれ!!忌々しい人間共め!!」

「シバイ様、落ち着いて下さい!!」

「どうかお気を確かに!!」



火竜の死骸が獣人国の王都へ送り届けられた日の晩、シバイは自分の屋敷にて半狂乱になりながら自室にある家具や置物を破壊する。彼を宥めようと使用人たちが駆けつけるが、そんな彼等に対してシバイは怒鳴りつけた。



「これが落ち着いていられるか!!あんな物を送りつけられてはどうしようもできん!!これまでの計画が台無しだ!!」

「シ、シバイ様……?」

「くそっ、忌々しい……やっと邪魔者のマジクやシンが居なくなったというのに!!」



シバイが30年の時を費やして魔術師の部隊を作り上げようとした理由、それは彼が王国へ攻め入るための軍隊を作り上げるためだった。シバイの目的は獣人国の軍隊の戦力を強化させ、それによって王国へ攻め入り滅ぼすつもりだった。


この計画を実行する際に最大の邪魔者になるのは最強の魔導士であるマジク、そして彼に魔術師を送り続け来たシンだった。この二人を何とかしない限り、王国に攻め入る事はできないとシバイは考えていた。


しかし、マジクはグマグ火山に生息していた火竜との戦闘で死亡し、更にはシンも詳細は不明だが死亡したという報告を受けた。この時からシバイは王国へ攻め入る絶好の機会だと判断した。だからこそこの数か月の間は獣人国の軍隊を動かす準備を行っていたが、王国からの使者が持参した贈り物のせいで彼の計画が破綻してしまう。




――王国の使者が運び出してきたのは火竜の死骸の頭部であり、災害の象徴と恐れられている竜種の死骸を送りつけた王国に対して誰もが恐怖した。素材としても貴重な火竜の死骸を送りつけるという行為、それはつまり王国は火竜をも倒せる戦力を保有している事を意味する。




火竜の死骸を送りつけたのは王国が獣人国に対して牽制を行い、自分達の国に攻め入るつもりならば火竜の二の舞にしてやると暗に伝えてきた事に等しい。そして竜種という存在は獣人国は最も恐れる生物であり、その死骸を送りつけられればどんなに屈強な精神の持ち主でも心が折れてしまう。


魔術師が少ない獣人国では火竜のような竜種と戦う時、彼等は魔法の力を頼る事ができないので肉弾戦で挑むしかない。しかし、圧倒的な力を誇る竜種に対して魔法の力も借りずに戦って勝利するなど不可能に等しい。実際に獣人国の歴史の中で竜種を討伐された記録はない。


火竜の死骸を見せつけられたときの国王や家臣の顔を思い出すだけでシバイは頭を抱え、今まで彼等はシバイの意見を取り入れて王国と本格的に戦を行う準備を進めていた。だが、火竜の死骸を見せつけられた事で全員の心が折れてしまった。



(もうどうする事もできん……あんな物を見せつけられては誰も戦など賛成しない)



今まではシバイに味方してきた者達も火竜の死骸を見せつけられた事で王国との戦争を恐れ、もしも下手に戦を仕掛ければ自分達も火竜のようになるのではないかと恐れてしまう。


既に殆どの家臣が主戦派から反戦派に切り替わっており、国王さえも戦を行う事に反対し、これからは王国との同盟を強めようと宣言する。そのせいでもうシバイだけではどうしようもできない。


彼は30年以上もの時を費やして作り上げた魔術師の部隊も無駄に終わりかねず、戦争が起こらなければ彼等の存在価値はないに等しい。いくら強大な戦力であろうと、ここは獣人国の国であって人間だけで構成された部隊は扱いに難しい。



「おのれ……これからどうすればいいのだ」

「シバイ様……」



シバイは椅子に座り込み、これからの事を考える。いつまでも落ち込んではいられず、まずは冷静になって現在の状況を分析し、打開策を考えなければならない。


とりあえずは今の段階では獣人国は王国に戦を仕掛ける事はできず、仮にシバイが主張しても他の者は聞き入れないだろう。しかし、気になる事があるのは王国がどのような手段で火竜を討伐したかである。


火竜がグマグ火山にてマジクの命と引き換えに討伐を果たされた報告は受けており、その後も理由は不明だが突如として王都に襲来した火竜を王国が対処したという報告もシバイは受けている。この時に王国に襲来した火竜をどのような手段で仕留めたのかシバイは調べる事にした。



「……取り乱したな、済まないが片づけを頼むぞ」

「は、はい……分かりました」

「……すまん」



使用人に対して謝罪を行った後、シバイは火竜討伐の経緯を詳しく調べるため、王国の事を調べる事にした――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る