12話 シバイの野望
魔術師の部隊を作り上げようと考えたのはシバイが20代の頃であり、彼は獣人国が王国との戦で敗戦が続く原因は自国の軍隊に問題があると考えた。獣人国の軍隊は当然だが獣人族のみで構成されており、彼等全員が人間よりも高い運動能力を誇る。
例えば獣人族ならば険しい山脈だろうが持ち前の優れた運動能力を利用し、人間ならば到底通り越せない場所だろうと彼等ならば楽々と通り抜ける事ができる。山や森のような場所で戦う時も獣人族の方が身軽に動けるので優位に立てた。
それにも関わらずに獣人国と王国が戦争を引き起こす際は常に王国側が勝利しており、その理由としては獣人国の軍隊には魔術師がいない事が原因だった。単純な兵士の質は獣人国の軍隊が勝るだろうが、それさえも覆すのが「魔法」の力が大きい。
王国には魔術兵や宮廷魔導士といった戦力が存在し、それに比べて獣人国の軍隊には魔術師は存在しない。理由としては獣人族の中で魔術師の才能を持つ者は少なく、獣人族は肉体を強化する魔操術は得意とするが、魔術師のように攻撃魔法を扱える者は滅多にいない。
戦争において最も恐れられるのは魔法を扱える人間がいるかどうかであり、圧倒的な戦力差を覆す力、それこそが魔法である。獣人国が王国に負け続けた理由は魔法を扱う兵士や、王国騎士などのような優秀な魔法剣の使い手がいたからである。
――シバイは20代の頃から魔法の研究を行い、どうにか獣人国でも魔術師の部隊を作り上げる事ができないのかと模索する。しかし、生憎と獣人族は種族的に攻撃魔法を不得手としており、肉体を強化する程度の事はできても魔術師のように魔法を生み出す力を持つ者は滅多に生まれない。
そこで彼が考えたのは獣人族の中から魔術師を探し出すのではなく、人口が多い王国から魔法を扱う才能を持つ人間を連れ出して魔術師の部隊を作り上げようと考えた。誘拐する人間を子供に厳選したのは下手に大人の場合だと抵抗される恐れがあり、それに子供の方が教育しやすいという考えから宰相は魔法の才能を持つ子供の誘拐を目論む。
だが、この計画のためには王国の関係者の協力が必要だった。そこで彼は国の宰相であるシンと内密に取引を結び、獣人国の中から子供を送り出す事を条件に王国の方からも子供を送る契約を結ぶ。
この計画の際にシバイにとって好都合だったのはシンの方も有能な暗殺者を探しており、獣人族のような運動能力に秀でた存在が適確だった。彼等はお互いの国の子供を送り付け、それぞれが暗殺者の組織と軍隊を築き上げる。
シンは獣人族の子供を育て上げて「白面」という組織を立ち上げたが、シバイの方は魔術師の部隊を築き上げる。だが、白面と違って魔術師の才能を持つ人間の子供はそう簡単には見つからず、それに適切な指導を行わなければならず、獣人国に逆らわないような人材に育て上げる教育にも時間が掛かった。
それでも30年という時を費やして遂にシバイは魔術師の部隊を作り上げる事に成功した。総勢100名の人間の魔術師を獣人族の部隊に取り入れる事に成功し、彼は軍隊の強化を行う。
――しかし、彼にとって誤算だったのは数か月後に送り込まれる「火竜の死骸」によって獣人国は王国への戦意を失い、結局は彼が作り上げた部隊は表に出す事ができなくなった。
※ここから先は各国の勢力の説明を行います
王国――ナイ達が暮らす人間が統治する国家。世界で最も人口が多く、王国騎士団を筆頭に優秀な人材が多い
獣人国――獣人族が統治する国家。王国とは同盟関係を結んでいるが、過去に幾度も戦を行っている。だが、王国との戦では敗戦が続いている
巨人国――巨人族が統治する国家。人口は少なく、せいぜい1万人にも満たない。ただし、圧倒的な武力を誇り、単純な戦力ならば世界一だと言われている
この3つの国が大陸をほぼ支配しており、エルフの場合は彼等の領地に存在する森に暮らしています。ドワーフは昔は国が存在しましたが、ある竜種によって滅ぼされてからは世界中に散り散りになって暮らしています。
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