11話 商人の正体

「そういえば……白面も元々は獣人国から拉致された子供達だったな。そして王国の方でも白面が子供を誘拐し、それを獣人国に送り付けている。つまり、宰相と繋がりを持つ人物が獣人国にもいる事になる」

「じゃあ、その人がガーゴイルをバーリに売った商人なの?」

「いや、まだ断定はできない。だが、仮にも王都に闘技場に送り込む以外に魔物を密輸するなんて宰相の協力がなければ不可能だ。その可能性は十分に高いだろう」

「いったい、何者なんでしょうか……」



バーリの屋敷に石像に見せかけてガーゴイルを送り込んだ商人も謎を残したまま消え去り、現時点では宰相と繋がりを持っていたという事しか分かっていない。だが、獣人国で活動を行う商人というのは確かだった。



「掴まった白面の人たちから情報は聞けないかな」

「いや、難しいだろう……彼等はあくまでも暗殺者として育てられてきた。余計な情報は与えないし、仕事を詮索した者は始末されると教育されているそうだ。獣人国に攫った人間を引き渡す時も別の人間を利用していたようだしね」

「あの僕達が前に出会った盗賊か……」



王国の人間を誘拐し、獣人国に送り付けていた白面からも重要な情報は聞けそうにはなく、多くの謎を残して宰相は逝ってしまった。宰相と繋がりを持っていたイシやイリアでさえも彼がどのように行動していたのかまでは把握しきれていない。


宰相がいなくなったとしても彼の協力者が国外に残っており、その人間を捕まえる事ができなければならない。恐らくは獣人国とも深い繋がりを持つ人物であり、その後も調査を行う事が決定した――






――その頃、獣人国の領地にてとある商人が獣人国の大臣の元へ訪れていた。大臣の前に現れた男はかつてバーリと取引を行っていた人物であり、彼はもう王国から人間の子供を誘拐する事はできないと告げる。



「宰相が死亡し、白面は壊滅しました。今後はもう王国からの調達は難しいかと……」

「そうか……だが、十分だ。それなりの数は揃える事ができた。奴等を鍛え上げれば我が国の戦力も増強されるだろう」



商人の前に立つのは60代ぐらいの男性であり、この国では国王の次に偉い立場の人間であった。彼の名前は「シバイ」と呼ばれ、まだ20代の頃に大臣に就いた人物だった。


このシバイが宰相シンと繋がりを持つ人物であり、数十年も共に協力関係を結んでいる。シバイは獣人国の子供を誘拐し、それを送りつけた張本人である。バーリと接していた商人は彼の配下の一人でしかなく、このシバイこそが黒幕だった。



「シバイ様、例の部隊の様子はどうですか?」

「もう少しだ。もう少しで完成する……人族の魔術師のみで構成された最強の軍隊がな」



シバイが宰相を利用して人間の子供達を王国へ送り込ませたのには理由があり、獣人族は人間と比べると身体能力は高いが魔術師のように魔法を扱える者は少ない。そこでシバイが目に付けたのは魔法を扱える者が多い種族を連れ出し、魔術師の部隊を作り上げる事だった。


獣人族や巨人族は人間よりは身体能力は高いが、生憎と魔法を扱える者は非常に少ない。魔法を得手とするのは森人族エルフだが、彼等は世界で最も数が少ない種族だと言われており、それに簡単に見つかる相手ではない。


そこでシバイが目に付けたのは世界で最も人口が多い王国であり、彼はその人材の中から魔法の才能を持つ子供を宰相に送り込み、その代わりにシバイの方も獣人族の子供を送り付ける契約を交わす。




――数十年の時を費やしてシバイは王国から魔法の才能を持つ人材を集め、彼等を教育して獣人国の軍力の強化のために魔術師の部隊を作り上げようとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る