10話 事後処理

――死亡したと思われていたオロカが生きていた事、しかも孤児院の子供を利用してナイの盾を盗み出させて誘き寄せ、彼を抹殺しようとした事を知った王国は再度王都の警備を見直し、闇ギルドの残党の捜索に力を注ぐ。


オロカは死亡し、その配下であった二人の男も彼が所有していた「蛇魔」と呼ばれる魔鞭に殺される形となった。後にアルトが調べたところ、蛇魔は魔剣や魔槍などの武器とは異なる事が発覚した。


蛇魔がまるで生きた生物のように人に襲い掛かったという話を聞き、すぐにイリアもアルトと協力して蛇魔の「解剖」を行う。その結果、蛇魔の正体は本物の生き物だと判明する。


生き物と言ってもその実態は「ガーゴイル」や「ゴーレム」に近い存在らしく、普段は意識はないのだが、生物の生命力を奪う度に意識が覚醒して所有者の意思に従って襲い掛かるという。この所有者とは蛇魔を手にした人間を差し、オロカが蛇魔を手にした時は彼の意思に従って動いていた。


だが、オロカの手元から蛇魔が離れた時点で蛇魔は自由となり、事前に2人分の生気を吸い上げた事で意識を覚醒させていた蛇魔は躊躇なくナイ達に襲い掛かった。オロカの最大の誤算は蛇魔の性質を理解せず、せいぜい魔剣などのような武器だと思い込んでいた点である。




この時にアルトが気になったのはかつてナイが王都へ訪れたばかりの頃、ヨク・バーリという商人が所有していた「ガーゴイル」を売却した異国の商人だった。ヨク・バーリを捕縛した後、彼からこの商人の情報を聞き出したが、王国の調査でも商人の正体は掴めなかった。


判明した事はバーリが取引を行っていた商人は獣人国から訪れた商人であり、魔物を取り扱う商人だった。彼が所有するのはガーゴイルだけではなく、他にも魔物を支配する道具を所持していたという。


これらの話を教えてくれたのはバーリの元で強制的に働かされていた使用人の「ノイ」だった。彼女はナイ達が屋敷に侵入した後に色々と協力してくれた女性であり、久々にナイ達と顔を合わせる。ちなみに面子はナイ、ミイナ、ヒイロ、アルトの4人であり、あとでモモとヒナも来る予定だった。



「ノイさん、お久しぶりですね!!」

「はい、皆様とまた会えて嬉しいです」

「本当に久しぶり……元気そうで良かった」

「家族の元に戻られたと聞いていましたが、元気そうで何よりです」」



ナイ達の元にバーリの屋敷の元使用人であるノイが訪れ、数か月ぶりの再会にナイ達は喜ぶ。ノイも自分を救ってくれたナイ達に出会えた事に嬉しく思い、現在の彼女は地元に戻って両親と共に暮らしているという。



「皆様にはなんとお礼を言えばいいか……前の時はちゃんとしたお礼も言えずに別れてしまい、申し訳ございません」

「気にする事はないですよ。それより、ノイさんの方は大丈夫ですか?」

「ええ、今は両親の稼業を積んでくれた御方と結婚する予定です。優しい御方なので両親も気に入っています」

「け、結婚!?そうだったんですか……」

「幸せそうでよかった」



ノイが結婚するという話にミイナとヒイロは驚くが、元々ノイは容姿が整っており、その容姿に目を付けたヨク・バーリが無理やりに自分の使用人として自分の傍に強制的に従えたほどである。


ちなみに現在のバーリは監獄の中で暮らしており、彼が捕まった後も色々と不正が見つかったため、一生監獄から出る事はできない。最初の頃は自分の隠し財産を狙う輩が何時の日か自分を脱走させてくれると思っていたようだが、その隠し財産の方はシャドウによって奪われていた。


一応はバーリの方にも例の商人の話を聞き出そうとしたが、バーリは商人の情報を引き換えに自分を釈放させてくれなどとふざけた要求をしてきたため、急遽彼の元で働いていたノイを呼び寄せて話を聞く。彼女は王国側の要求を快く受け入れ、色々と話してくれた。



「申し訳ありませんが例の商人の事は私もあまり詳しくは知りません。元々、バーリも彼の事をあまり知らないようでした」

「知らない?取引する相手の事を?」

「はい、おかしな話に聞こえるかもしれませんが、あの男は取引を行う際は自分の事を詮索しないように注意してきました。私は常日頃からバーリの世話を任されていたので分かりますが、バーリもあの男の事は知っているとは思えません」

「……元は商人の割に随分と不用心だね」



ノイの話を聞いていたアルトは疑問を抱き、ヨク・バーリは性格はともかく、元々はこの王都でもそれなりに名の通った商人だった。その商人が得体の知れない異国の商人と取引を行っていたという話に疑問を抱く。



「私の効いた話によると、その商人の方は宰相様から紹介されたそうです。だからバーリも信用していたのかもしれません」

「宰相……なるほど、そういう事か」



しかし、ノイの話を聞いてアルトはバーリに関しても宰相と関りを持っていた事を知って納得してしまう。どうやらバーリが契約していた商人と繋がりを持っていたのは宰相の方らしく、残念ながらノイやバーリに問い質しても商人の正体を掴むのは難しそうだった。

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