9話 蛇魔の秘密
(――憎い、この小僧が憎い!!殺してやる、絶対に殺してやる!!)
オロカは自分を抑えつけるナイに対して憎しみの瞳を向け、もしも少し前のナイならば憎悪と殺意を併せ持つ彼の瞳に怖気づいたかもしれない。だが、リョフとの戦闘を乗り越えたナイはこの程度の事で怯えはしない。
「お前はここまでだ。それと君も話を聞かせてもらうよ」
「うっ……わ、分かったよ」
「くそっ……小僧が、儂を誰だと思っている!?」
「何者だろうと関係ない、この盾を狙う人間は……絶対に許さない」
ナイはオロカを手放すと彼を見下ろし、その瞳には静かな怒りを宿していた。そのナイの気迫にオロカは気圧されそうになり、自分よりも遥かに年下で先日まで子供だったはずのナイにオロカはたじろぐ。
数々の強敵との戦闘を乗り越えてナイは成長を果たしてきたが、成長したのは肉体だけではなく、精神面も強くなっていた。オロカが何者であろうと関係なく、亡き親友の形見を狙おうとする人間ならばナイは何者であろうと許しはしない。
「お前はこのまま警備兵に突き出す。しっかりと罪を悔い改めろ」
「ふ、ふざけるな!!貴様さえいなければ……」
「その台詞は聞き飽きた!!」
「うわぁっ!?」
オロカに大してナイは拳を振りかざすと、彼の目の前で地面に叩き付ける。亀裂が生じる程の威力の拳が地面に叩き込まれ、それを目にしたオロカは冷や汗を流す。
「さあ、一緒に来い……お前は罪を償わないといけないんだ」
「く、くそっ……」
「す、すげぇっ……」
ナイの迫力にオロカは抵抗は無意味だと悟り、諦めたのか項垂れる。そして少年の方はナイの拳の一撃で亀裂が走った地面に視線を向け、冷や汗を流しながらも彼に従おうとした。
だが、この時に3人は完全に忘れていた。それは二人分の生気を吸い上げた蛇魔が放置されており、蛇魔は一人でに動き出すと一番近くに立っていた少年の元へ向かう。
『シャアアッ!!』
「うわっ!?」
「なっ!?」
「蛇魔!?」
蛇魔は少年の背後から飛びつき、彼の身体に絡みついた。それを見たナイは驚き、オロカの方は蛇魔がまたひとりでに動き出した事を知り、形勢逆転の好機だと判断する。
「く、くそっ!?離れやがれっ!!」
「動かないで!!すぐに外すから!!」
「ふははっ!!やれ、やってしまえ蛇魔!!」
『シャアアッ……!!』
少年に絡みついた蛇魔をナイは引き剥がそうとするが、その間にオロカは起き上がると、今のうちに逃げ出そうとした。だが、この時に蛇魔は逃げ出そうとするオロカに顔を向け、元々の持ち主にも関わらずに蛇魔はオロカへ目掛けて身体を伸ばして首元に喰らいつく。
『シャアアアッ!!』
「うぎゃあああっ!?」
「えっ!?」
「な、何だっ!?」
蛇魔は少年を拘束した状態から更にオロカの首筋に目掛けて首を伸ばし、首に噛みついて生気を吸い上げる。噛みつかれたオロカは必死に引き剥がそうとするが、若い男でも一瞬で生気を吸い上げた蛇魔はオロカの生気を瞬時に吸いつくす。
元から重傷を負っていた事もあってオロカは生気を瞬時に吸い上げられ、彼は断末魔の悲鳴を上げる事もできず、痩せ細ったミイラと化す。そして3人目の人間の生気を吸い上げた途端、蛇魔は今度はナイに目掛けて牙を剥く。
『シャギャアアアッ!!』
「うわっ、こっちにも来たっ!?」
「このっ……いい加減にしろ!!」
自分にまで噛みつこうとしてきた蛇魔に対してナイは強化術を発動させ、この時に彼はリーナから受け取った魔法腕輪を既に装着していた。魔法腕輪からナイは魔力を引き出し、聖属性の魔力で肉体の限界まで強化すると、噛みつこうとしてきた蛇魔の上顎と下顎を掴み、力ずくで引き裂く。
「このぉおおおっ!!」
『アギャアアアッ!?』
「うひゃあっ!?」
圧倒的な腕力でナイは噛みつこうとしてきた蛇魔を引きちぎると、引き裂いた箇所から蛇魔が吸い上げた3人分の生気(聖属性の魔力)が噴き出し、その光景を見ていた少年は驚愕の声を上げる。
ナイは強化術を解除させ、白い煙のように魔力を放つ蛇魔に視線を向け、今まで様々な魔剣や魔槍などの武器を見てきたが、こんな異様な能力を持つ武器を見るのは初めてだった。
(危なかった……油断してたら大変な事になっていたかも)
少年に絡みついていた鞭を外し、ナイは震える少年を抱き上げ、とりあえずは周囲の惨状を見てどうするべきか悩む。3人の人間の死体に引き裂かれた魔鞭が落ちた状況を見てナイは警備兵にどのように報告するべきか考え込む。
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