8話 老人の正体は……

「答えろ!!お前は誰だ、あの武器は何なんだ!?」

「ぐぐぅっ……!?」

「な、なあ兄ちゃん……そいつ、確かこいつらからオロカとか呼ばれてたけど……」

「オロカ……まさか、あのオロカか!?」



ナイもオロカの事はよく知っており、それでも最初は信じられなかった。なにしろオロカは既に死亡しているはずでここに居るはずがない。


闇ギルドの長を務めてきたオロカは先日の事件の際、爆発に巻き込まれて死亡したと聞いている。死体も確認されており、生きているはずがない。しかし、オロカと呼ばれた老人はナイに追い詰められながらも笑みを浮かべる。



「ふんっ……こうして顔を合わせるのは初めてだったな、貧弱のガキめ……」

「まさか、お前がオロカなのか?」

「くそっ……忌々しい、貴様さえいなければ儂はこんな目に遭わずに済んだ物を!!」



オロカはナイに対して憎々し気に睨みつけ、彼さえいなければオロカは今でも闇ギルドの長として君臨していたはずだった。




――時は遡り、オロカは罠に嵌まって拠点にしていた建物のごと爆破され、彼は全身火傷を負う程の酷い怪我を負った。普通の人間ならば死んでもおかしくはない傷だったが、彼は奇跡的に生還する。


実は爆発に巻き込まれた際、オロカの傍には彼の影武者が存在した。オロカは万が一の場合に備えて自分の影武者を同行させ、彼を囮役として使うつもりだった。しかし、爆破に巻き込まれた影武者は死亡してしまい、オロカだけはどうにか配下の手で救い出された。


全身に火傷を負う重傷だったが、オロカは自分をこんな目に追い込んだ人間の復讐心で意識を取り戻す。幸いにもオロカの影武者の死体が発見され、彼は既に死亡されたと思い込まれ、王国兵が彼の捜索をする事はなかった。


その後のオロカは火竜との戦闘に巻き込まれた被害者として過ごし、闇ギルドが壊滅する前に運び出した金と自分が扱う「蛇魔」と呼ばれる魔鞭を持ち出す。後はかつて自分に従っていた配下を集め、闇ギルドを再結成させるつもりだった。


結局のところはオロカが発見した元配下は2人だけであり、他の者は殆どが捕まるか既に死亡していた。そこでオロカは仕方なく、この2人と他に人をやとって自分をこんな目に追い込んだ人間達の復讐を計画する。




オロカが最初の標的として選んだのは「ナイ」であり、そもそも彼が破滅した原因はナイだった。王都にナイが訪れてから彼は破滅の道を歩み、彼さえいなければオロカどころかシンもシャドウも存命し、この国を裏から支配する存在として生き続けていただろう。


自分の人生を狂わせたのはナイだと思い込んだオロカは彼に復讐するため、まずは2人の部下を利用してナイを誘き寄せる作戦を考える。そこでオロカが思いついたのはナイが所有する反魔の盾だった。


ナイと親しい間柄の人間を誘拐して彼を招き寄せる作戦も考えたが、生憎とナイの周りの人間も只者ではなく、そもそも彼に近付く事も容易ではない。ナイの周りには王国騎士団や冒険者もいるため、この方法は却下した。


そこでオロカはナイの情報を調べ上げ、彼が反魔の盾を何よりも大切にしている事を知る。反魔の盾はナイにとってはただの防具ではなく、亡き親友の形見だとしったオロカは反魔の盾を盗み出せる人物を探し出す。




オロカが目を付けたのはとある獣人族の少年であり、この少年は王都の孤児院で暮らしているが、実は孤児院に拾われる前は盗人として有名な存在だった。親から捨てられた少年は盗みを働き、盗みの腕だけで一人で生き続けたという噂はオロカも耳にしていた。


結局は少年は捕まってしまい、彼は孤児院へと預けられる。孤児院の人間は親を失った彼を心優しく受け入れ、少年の方も孤児院の人間には心を許し、非道に走る事はなかった。




しかし、そんな少年の盗みの腕に目を付けたオロカは部下二人を利用し、彼に接触を図る。調べたところによると少年の孤児院の経営は芳しくはなく、このままでは孤児院を維持するのも厳しい状態だと知ったオロカは少年に大金を渡す事を約束して依頼を行う。



『あの小僧を味方に引き入れろ』

『本気ですか!?あんなガキ、すぐに捕まりますよ!?』

『構わん、あんな小僧が一人捕まった所でただの子供の悪戯だと思われるだろう』



オロカの命令に部下二人は躊躇したが、別に少年が失敗したとしてもオロカとしてはどうでもよく、少年が捕まろうとどうでもよかった。仮に失敗しようが以前に盗みを働いた少年の言葉などまともに聞き入られるはずがない。



『おい、坊主!!お前が盾を盗み出せば金を払ってやる!!銀貨100枚でどうだ?』

『銀貨100枚!?嘘じゃないだろうな!!』

『ああ、約束してやる……但し、失敗しても俺達の名前を出すなよ。出した場合は……お前等の孤児院がどうなるか分かってるだろうな?』

『うっ……や、やってやるよ!!』



少年は孤児院を守るために仕方なく彼等の依頼を引き受け、そしてナイの反魔の盾を盗み出し、人目のない空き地に逃げ出す。この時に誤算だったのは少年が完全にナイを撒く事はできず、後を追跡されていた事だった。

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