6話 生きていた悪党

「反省しろ!!」

「ぐへぇっ!?」

「ば、馬鹿なっ!?」

「すげぇっ……」



ナイは片手で自分よりも身の丈が大きい男を持ち上げると、そのまま地面に叩き付けて気絶させる。巨人族を想像させるナイの怪力に残った男は戸惑い、少年の方は呆気に取られながら感動の表情を浮かべた。


とりあえずは片方を始末すると、もう片方の男に対してナイは振り返る。この時に男は慌てて杖を構えると、魔法を発動させようと杖先に魔法陣を展開する。



「く、来るな!!フレイム……」

「遅いっ!!」



魔法が完全に発動する前にナイは男に目掛けて踏み込むと、一瞬で距離を縮めてドルトン仕込みの「掌底突き」を顎に放つ。



「はあっ!!」

「ぐへぇっ!?」

「うわっ!?」



魔術師の男は派手に吹き飛び、少年は自分の元に飛んできた男を躱すと、地面に転がり込んだ男は鼻血を噴き出しながら痙攣する。少しやり過ぎたかと思ったナイだったが、これで残されたのは反魔の盾を盗み出した少年だけだった。


少年の方はナイの強さを見せつけられて戦う気は失せたらしく、逃げる素振りもせずに向き合う。ナイはそんな少年に事情を問い質そうとした時、不意に気配を感じて振り返る。



「誰だ!?」

「えっ?」

「……ちっ、やはりしくじったか」



ナイは後方を振り返ると、そこには漆黒のマントを身に付けた人物が立っていた。その人物は何故か全身に黒色の包帯を巻いており、異臭を放っていた。声音から察するに老人のような声だが、全身を覆い隠しているので本当に老人なのかは分からない。



「くそ、役立たず共が……」

「お前は……誰だ!?」

「臭っ……何だよ、この臭い!?」



人間のナイでさえも包帯を全身に巻き付けた老人の放つ異臭に顔をゆがめ、獣人族の少年に至ってはナイよりも離れているのに必死に鼻を抑える。そんな二人の態度に老人は怒り狂い、マントの中に隠し持っていた「鞭」を取り出す。



「儂を臭いだと……おのれ、殺してやる!!」

「うわっ!?」

「危なっ!?」



鞭を取り出した老人はナイと少年に目掛けて振り下ろし、この際に二人は避ける事には成功したが、この時に地面に叩き付けられた鞭はまるで蛇のように動いて先ほど倒された男二人の身体に絡みつく。



「うがぁっ!?」

「ぎゃああっ!?」

「ちっ……避けたか、だが構わん。絞め殺せ、蛇魔!!」

「なっ!?」

「うわっ!?」



老人が「蛇魔」と叫んだ瞬間、この時にナイは鞭の先端が本物の蛇の頭のような形をしている事に気付き、蛇の頭を模した鞭は勝手に動いて男達の身体を締め付ける。


この時に鞭の先端の蛇は口元を開き、片方の男の首筋に噛みつく。その様子を見てナイは驚き、まさか本物の蛇かと思われたが、直後に噛まれた男に異変が生じた。



「ぐああああっ!?」

「ひいいっ!?」

「な、何だ!?」

「これは……!?」

「くくくっ……干からびるまで吸い上げろ」



噛まれたのは魔術師の男であり、蛇の頭の形を模した鞭の先端に噛みつかれた男は悲鳴を上げ、徐々に身体が萎み始めて痩せ細っていく。最終的にはミイラのように変わり果てると、身体が痩せ細ったせいで拘束から逃れて地面に崩れ去る。


ミイラのように変わり果てた男を見てナイは驚愕し、同時に捕まったもう一人の男は鼻血を流しながらも必死に首を振る。男は鞭で自分を縛り上げる老人に泣きついた。



「お、お願いです!!許してください、様ぁっ!!」

「……オロカ!?」

「ちぃっ……この馬鹿がっ!!」



オロカの名前を男が口にした瞬間、ナイはその名前を聞いて驚愕の表情を浮かべた。オロカの事はナイも他の人間から聞かされており、先日の事件で死んだはずの闇ギルドの長の名前である。


老人は鞭で縛り付けたもう一人の男に対して鞭を振りかざし、彼の意思に従うように鞭の先端の蛇頭も動き出す。それを見たナイは先ほどの男のよう「蛇魔」と呼ばれる鞭がもう一人の男もミイラにさせようとしている事に気付き、咄嗟に止めに入った。



「止めろっ!!」

「なっ!?馬鹿、何してんだ!?」

「ほう……これは手間が省けた」



ナイは男の首に鞭の先端の蛇頭が噛みつく前に両手で掴み取ると、それを見ていた少年が声を上げ、一方で老人は口元に笑みを浮かべる。ナイは鞭の先端を止める事はできたが、この時に男の身体に巻き付いていた鞭が解放され、その代わりにナイが拘束されてしまう。



「馬鹿めっ!!」

「くぅっ!?」

「な、何してんだよあんた!?殺されちまうぞ!!」



敵である男を救うために代わりにナイは鞭で身体を拘束され、その光景を見ていた少年は声を上げるが、老人の方は勝利を確信する。しかし、ナイは全身を鞭で拘束されながらも諦めるつもりはなかった。

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