5話 盗人の事情
少年の後を追いかけ、ナイはかつてミイナとヒイロと初めて出会った空き地へと辿り着く。正確には空き地を取り囲む建物の屋根の上に移動し、気づかれないように隠密と無音歩行の技能を発動させ、存在感と足音を消して様子を伺う。
反魔の盾を抱きしめた少年は興奮した様子で周囲を振り返り、誰かと待ち合わせしているのか空き地から離れようとしない。その様子を見てナイは疑問を抱き、しばらくの間は様子を伺っていると、ここで空き地の方に少年以外の人影が現れた。
「……盗んで来たか」
「あ、来た!!おい、約束の時間よりも遅いぞ!!」
「口に気を付けろよ、ガキが……」
路地裏を潜り抜けて現れたのは漆黒のマントで全身を覆い隠した人物が二人であり、声音から察するにどちらも男性らしく、彼等を見た途端に少年は警戒する。
「あ、あんた達に言われた通りに盗んできたぞ!!これでいいんだろ!?」
「ほう、それがあの伝説の……」
「よく盗み出したな……ふっ、こんなガキに盗まれるようならば例の英雄も大した事はないな」
反魔の盾を見せつけてきた少年に対して男達は驚いた声を上げ、片方の男は子供に盾を盗まれたナイを嘲笑する。その態度にナイは眉をしかめるが、もう少しだけ様子を伺う。
どうやらナイから反魔の盾を盗み出した少年はこの二人に命じられていたらしく、彼は盾を抱きしめながら男達に警戒した様子で距離を取る。そんな少年に対して先ほどナイを馬鹿にした男が腕を差し出す。
「さあ、それを早く渡せ」
「おい、その前に金だ!!金を先に出せよ!!」
「調子に乗るなよ、ガキが!!」
「へっ、約束を守れないようならこの盾は渡せないね!!」
「このっ……!!」
「おい、止めろ!!」
少年が舌を出してお尻を叩くと、その態度に男が痺れを切らして襲い掛かろうとした。しかし、男の行動に対して少年は余裕の表情で攻撃を躱す。
「そんな動きで俺を捕まえられるかよ!!」
「くそっ、このっ……うおっ!?」
「もういい、止めろと言っている!!」
強硬手段で少年から反魔の盾を盗み出そうとした男だが、少年に逆に足を引っかけられて転んでしまい、その様子を見ていたもう一人の男が怒鳴りつける。こちらの男は懐に手を伸ばして袋を取り出す。
「これが約束の報酬だ……銀貨100枚丁度だ。これを渡すからお前も盾を渡せ」
「銀貨100枚……ほ、本物だろうな?」
「これ以上に俺達を怒らせるなよ……さっさと渡せ!!これ以上に逆らえばあの孤児院を焼くぞ!!」
「くぅっ……」
足を引っかけられた男の言葉に少年は怯えた表情を浮かべ、彼等の話を聞いていたナイは全てを察した。どうやら少年はこの二人に金を貰う条件で反魔の盾を盗み出し、それを彼等に渡すためにここへ来たらしい。
男達が孤児院という単語が出した事からナイは少年がまだ他にも訳ありだと考え、これ以上は見過ごす事はできなかった。ナイは少年が反魔の盾を差し出す前に男達と子供の間に降り立つ。
「よっと」
「うわっ!?」
「な、なにぃっ!?」
「だ、誰だ貴様!?」
ナイが地面に着地すると、少年は驚いた表情を浮かべて他の二人も慌てふためく。そんな彼等に対してナイは真っ先に少年の元に近付き、彼から反魔の盾を奪い返す。
「これは返してもらうよ」
「わあっ!?」
「なっ……き、貴様!!それは我々の……」
「……これはお前達のじゃない」
「ひいっ!?」
男の言葉を聞いてナイは目つきを鋭くさせ、この時に凄まじい気迫を放つ。数々の死闘を乗り越えて強くなったナイは人間離れした「威圧感」を放ち、その威圧を受けた男達は恐怖で身体が震え上がる。
反魔の盾を奪い返された少年の方もナイのあまりの迫力に腰を抜かし、その場にへたり込む。その様子を見てナイは子供を驚かせたかと思い、とりあえずは反魔の盾を右腕に装着すると男達と向かい合う。
「お前達は誰だ!!どうしてこの盾を狙う!?」
「く、くそっ……逃げるぞ!!」
「あ、ああ……」
「逃がすと思ってるのか!!」
男達はナイの質問に答えず、慌てて逃げ出そうとしたがナイは空き地にはたった一つしかない出入口に先回りする。男達は一瞬にして出入口を塞がれた事により、慌てて隠し持っていた杖と剣を取り出す。
「こ、こいつ……」
「仕方ない、やるぞ!!時間を稼げ!!」
「杖……魔術師か」
「お、おい!!兄ちゃん気を付けろ、そいつは火属性の魔法を使うぞ!!」
金を持っていた男は杖を取り出したのでナイはいち早く男の正体が魔術師だと見抜き、何故か少年の方が注意を行う。もう片方の男は剣を取り出し、ナイへ目掛けて突っ込む。
「馬鹿め、武器無しで勝てると思ってるのか!?」
「馬鹿は……どっちだ!!」
「うわっ!?」
急いで後を追いかけたナイは武器の類は身に付けていないが、あのリョフでさえも打ち倒したナイからすれば男の振り下ろした剣を簡単に躱し、逆に男の顔面を掴んで片手で持ち上げる。
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