4話 盗人

「本当にいいの?こんなに良い物を貰って……」

「全然いいよ!!あ、でもお礼ならアルト君に言ってね……僕は素材を集めただけだから」

「それでも十分だよ。ありがとう、リーナ」

「う、うん……えへへ」



リーナはナイの感謝の言葉に素直に喜び、やがて彼女は意を決したようにナイと向き合う。緊張した様子でリーナはナイを見つめ、そんな彼女の態度にナイは戸惑う。


覚悟を決めたリーナがナイに告白しようとした時、ここで彼女はナイの窓の部屋の外に人影が映し出された事に気付く。この時にナイはリーナの表情を見て異変に気付き、後方を振り返るとそこには窓を開いて机の上に置かれた反魔の盾に手を伸ばす人物がいた。



「なっ!?」

「だ、誰!?」

「ちぃっ!!」



窓を開いて腕を伸ばしていた人物に向けてナイは駆け出すが、いちはやく相手の方が先に盾を手にしてしまい、そのまま盾を取り上げて外へ逃げ出す。



「しまった!!」

「ナイ君、追いかけよう!!」



ナイは窓から逃げた盗人を追うために窓に身を乗り出すと、続けてリーナも出て行こうとした。だが、彼女はナイの誕生日を祝うために今日は普段の動きやすい軽装ではなく、ドレスを身に付けていた事が仇になって足を引っかけてしまう。



「あうっ!?」

「リーナ!?」

「ぼ、僕の事は気にしないで……早く追いかけて!!」



反魔の盾を盗み出した人物は既に建物の屋根の上に目掛けて跳躍し、その様子を見てナイは相手の正体が運動能力の高い獣人族の仕業かと思う。リーナは心配だが、彼女の言う通りにここで追いかけなければ見失ってしまう。



「逃がすか!!」



剛力の技能を発動させてナイは足元に力を込めると、屋根の上に逃げた盗人を追いかける。厳しい激戦を乗り越えた事でナイの身体能力は更に高まっており、屋根の上を飛び移る盗人の後を追いかけた。


盗人の方は反魔の盾を抱きしめながら駆け抜け、この時にナイは相手の体型が妙に小さい事に気付き、不思議に思いながらも後を追う。だが、相手も中々に足が速く、身軽な動作で次々と別の建物へ飛び移っていく。



「へへ、追い付いてみろよ!!」

「君は……!?」



その声を聞いた途端、ナイは驚愕の表情を浮かべる。反魔の盾を盗み出した相手はどうやら獣人族の子供らしく、年齢は恐らくは10才程度だった。つまり、10才程度の子供がナイの部屋に忍び込み、リーナが気付くまでナイは彼女の気配を捉えられなかった。



(この子、何者だ……そういえばさっきから気配を全く感じない)



ナイは気配感知などの技能を覚えているにも関わらず、逃げ出す子供から気配の類は全く感じられなかった。ナイのように隠密などの技能を使用しているのかと思われたが、どうにも違和感を感じる。


しかし、ナイは一気に追いつくために瞬動術を発動させ、距離を縮めようと足元に力を込める。逃げ出す子供に向けてナイは踏み込もうとした時、ここで子供はナイの向かい側に存在する建物の屋根の上に立ち止まった。



「よし、ここらでいいか……ほらよっ!!」

「なっ!?」



少年は何を考えたのか反魔の盾を建物の下の街道に目掛けて投げ飛ばし、それを見たナイは咄嗟に回収するために建物から飛び降りた。落下する反魔の盾を掴もうとナイは腕を伸ばすが、この時に屋根の上の少年は笑みを浮かべて自分の指を手繰り寄せる。



「引っかかった!!」

「うわっ!?」



どうやら事前に反魔の盾に糸を括り付けていたらしく、空中でナイが反魔の盾を掴む寸前で少年は糸を手繰り寄せ、自分の元に引き返す。この時にナイは地上へ着地したが、街道の方から馬車が近付いていた。



「ヒヒンッ!?」

「う、うわぁっ!?」

「くっ!?」

「ほら、轢かれるぞ!!」



迫りくる馬車を見てナイは嵌められた事を知り、少年は街道に馬車が走っている事を知って反魔の盾を投げ捨てた事に気付く。こんな単純な罠に引っかかった事にナイは憤るが、反射的にナイは地面を転がって馬車を回避する。


どうにか馬車を避ける事に成功したナイだったが、屋根の上を見上げると既に少年は消えており、逃げ出していた様子だった。ナイは怒りを抱きながらも後を追いかけようとすると、この時に彼は「心眼」を発動させた。



(何処に消えた……!!)



特殊技能の心眼は五感を研ぎ澄ませ、気配感知などにも反応しない能力を持つ敵でさえも見抜く事ができる。心眼を発動させてナイは少年の行方を捜すと、少し離れた場所に動く物体を感知する。


心眼を頼りにナイは追跡を再開すると、相手はナイを完全に撒いたと油断しているのか、建物から降りて路地裏の方へと移動を行う。偶然なのか、以前にナイがヒイロ達と最初に出会った建物に囲まれた空き地に向けて移動しており、すぐにナイは後を追う。

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