3話 和国の子孫

(ナイ君がもしもシノビ君とクノ君が暮らしていた里の出身だとしたら……その事実は隠しておいた方がいいか)



ナイが仮にシノビとクノと同じ出身だった場合、彼を捨てた両親はシノビたちと同様に和国の子孫という事になる。それならばシノビとクノに聞けばナイの両親の手掛かりが掴めるかもしれないが、もしもナイが和国の旧領地の里に生まれた人間ならばあまりにも報われない。


仮にナイの両親が里の出身者だった場合、ナイは一方的に捨てられて森の中で魔物に殺される欠けるところ、偶然アルに見つかって保護された。そしてナイは以前に国王から褒美を受け取る際、自分ではなくてシノビの話を聞くように願った。


シノビの願いを国王に聞き遂げるようにナイが告げたのは善意からだが、もしもナイがシノビの一族が管理する里で生まれた人間の場合、知らず知らずにナイは自分を捨てた人間達のために手柄を手放して彼等に得になる願いを叶えた事になる。



(この事は黙っておこう……)



別にナイが自分の出生を知ったとしても今更彼が復讐を考えるような性格ではない事はアルトも知っているが、それでも彼とシノビとクノの関係に何らかの影響を与える可能性もあるため、アルトは隠し通す事にした。


そもそもアルトの推測はこれまでの情報を参考に推理した推論のため、ナイがそもそも和国の出身者という証拠はない。黒髪の人間は王国内では珍しい存在だが、別に全くいないというわけではなく、もしかしたらナイの両親は和国の里の人間ではない可能性も残っている。


しかし、ナイが捨てられた場所は辺境の地であり、アルが暮らしていた村以外には近くに人が住める場所はない。その事から考えてもアルトの推測は的外れだとは言い切れず、それでもアルトは黙っておくことにした――






――盛大な宴を終えた後、ナイは自分の部屋へ戻ると反魔の盾を取り出す。亡き親友の形見であり、現在は正式にナイが管理する事を許されている。



「ゴマン、僕もやっと15才になったよ……」



ナイはゴマンの事を思い返しながら反魔の盾を持ち上げた状態でベッドの上に横になり、盾を抱きしめながら眠りにつこうとした。だが、この時に誰かが扉をノックすると、ナイは不思議に思いながらも盾を置いて扉を開けた。



「はい、どなたですか?」

『あっ……えっと、ナイ君。中に入っていいかな?』

「その声は……リーナ?」



声を聞いて相手がリーナだと悟ったナイは扉を開くと、そこには緊張した様子のリーナが立っていた。彼女が自分の部屋に訪れた事にナイは驚くが、とりあえずは中に通す。


リーナはナイの部屋に入るの初めてであり、緊張した様子で背中に隠していた小包を取り出す。それを見たナイは不思議に思ったが、リーナは親友のアルトに作って貰ったお祝いの品を渡す。



「え、えっと……これ!!どうかナイ君に受け取ってほしい!!」

「えっ……でも、リーナからはもうお祝いの品は貰ってるよ」

「あ、あれはお父さんに頼まれた贈り物だよ。だから、僕の贈り物はこっち……受け取ってくれる?」



最初に宴が始まった時にナイは他の人間から色々と贈り物を貰い、この時にリーナからはナイは水晶製の像を貰った。美術品としての価値が高い代物であり、売りに出せば恐らくは金貨数十枚の価値がある代物を受け取っている。


このアッシュの贈り物は今後も娘と仲良くしてほしいという気持ちもあるが、リーナとしては自分でも贈り物を用意したいと思い、幼馴染であるアルトと共に用意した。正確に言えばアルトが要求した素材をリーナが集め、その素材を利用してアルトはナイが一番必要としている魔道具を作り出す。



「これって……もしかして魔法腕輪?」

「う、うん……ナイ君が欲しい物と言ったらこれしかないとアルト君が言ってたから」



ナイは小包を開けると、そこには銀色に光り輝く魔法腕輪が収められていた。現在、ナイが所有している魔法腕輪よりも複雑な紋様と魔石が嵌め込まれており、見るからに価値の高そうな代物だった。



「これは……凄く綺麗だね。でも、こんなに高そうな物……」

「え、遠慮しないで受け取って!!ほら、ナイ君のお陰でこの国は救われたんだよ!?僕だって命を救って貰ったし、遠慮する事なんてないから!!」



断りそうな雰囲気を察したリーナはナイに魔法腕輪を押し付け、その彼女の勢いに押されてナイは魔法腕輪を受け取り、戸惑いながらも腕輪を覗き込む。



(これは……凄い力を持っているな)



触れただけでナイは魔法腕輪を性能を感じ取り、手にしただけで嵌め込まれている魔石の魔力を感じ取る事ができた。今まで利用していた魔法腕輪よりも性能が高く、この魔法腕輪ならば今まで以上に魔法剣を発動させる際に必要な魔力を引き出せると確信を抱く。

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