2話 ナイの出生
「――ううっ、あのナイがこんなにたくさんの友達ができるとはな……」
「そうじゃな、この光景をアルにみせてやりたかったが……」
ナイの誕生日を祝う場にはドルトンとイーシャンも参加しており、二人ともナイの誕生日が近いという事で王都にずっと滞在していた。二人がここへ訪れた理由はヨウの予知夢を聞いてナイの身に危険が訪れると聞いて心配したからだが、もうそろそろイチノへ戻る予定だった。
現在のイチノも王都と同様に復興中であり、ゴブリンの軍勢が攻め寄せてきた事で街は半壊状態だった。それでも少しずつ街の住民が戻り始め、元の街並みに戻りつつあった。イーシャンは優秀な医者であり、ドルトンは街一番の商人であるため、復興の際には役立つ人材である。
ヨウの予知夢ではナイは漆黒の剣士に殺されかける未来が見えたそうだが、その未来は誤りでナイは漆黒の剣士の殺される事はなく、見事に運命を受け入れながらも生き延びた。これで彼等が心配する事はなにもなく、明日にはイチノへ戻るつもりだった。
「イーシャンよ、お主は無理に戻る必要はないぞ。ここにはお主の友人がおるのだろう?それならばここに残ってナイを見守ったらどうじゃ」
「へっ……馬鹿を言うな、俺がいなくなれば誰がお前の面倒を見るんだ。その義足を調整できるのは俺だけだぞ。それに……もうあいつはガキじゃない、俺達の面倒を見る必要もないだろう」
「ふっ……それもそうじゃのう」
イーシャンの言葉にドルトンは頷き、立派に成長を果たしたナイに自分達は必要ないと考えた。だからこそ二人は明日にイチノへ向けて出立するつもりだが、ここでアルトが二人に話しかけてきた。
「どうも、御二人とも……ナイ君の保護者様ですね」
「ん?お前は……い、いや!!王子様!?」
「これはこれは……アルト王子、我々に何か御用ですかな」
アルトを見たイーシャンは慌てて跪き、ドルトンは頭を下げる。二人の態度を見てアルトは苦笑し、堅苦しい事を嫌う彼は二人に顔を上げる様に促す。
「今日の宴は無礼講だ、だからそんなかしこまった態度を取る必要はないよ」
「で、ですが王子様を相手にそんな……」
「気にしないでくれ。それよりも御二人に聞きたいことがあるんだが……」
「何でしょうか?」
ドルトンとイーシャンはアルトに話しかけられて緊張気味に彼の次の言葉を待つ。仮にも一国の王子が一般人である自分達に何を尋ねるつもりなのかと身構えると、アルトは離れた場所で他の人間と談笑するナイを見ながら二人に質問する。
「ナイ君から話は聞いているが、彼は赤ん坊の頃に森の中に捨てられていたと聞いている。なら、彼の育て親は実の両親を探したりはしなかったのか聞きたくてね」
「あ、ああ……その話ですか」
「ふむ……」
ナイの実の両親の話を尋ねられるとイーシャンとドルトンは困った表情を浮かべ、正直に言えば彼等二人もナイの両親に関して気になってはいたが、アルが存命の時はその手の話題には触れてこなかった。
理由としてはアルは魔物が巣食う森の中に赤ん坊のナイを捨て、しかも誰にも拾わないようにという置手紙まで残して逃げた彼の両親に憤慨していた。アルは手紙をその場で引きちぎり、赤ん坊のナイを拾い上げて自分の暮らす村まで連れて行った。
「儂等もナイの本当の両親の事は気になりましたが、彼の育て親のアルは両親の事は一切探そうとせず、我々がナイの事を知ったのは彼が育ってから数年も経過していたので調べようがなかったのです」
「あるによるとたしかナイは捨てられたとき、手紙が残されていたようですけど……その手紙はアルは捨てたと言ってました。だから手がかりになりそうな物はもう……」
「そうか……」
ナイが捨てられてから既に15年が経過しており、しかも両親に繋がりそうな唯一の手掛かりはアルによって捨てられてしまった。なので普通に考えればもうナイの両親に繋がるような手がかりは残っていないように思われるが、ここでアルトは気になったのはナイが「黒髪」だった。
(黒髪の人間はこの国でも珍しい……という事はナイ君は和国に暮らしていた人間の系譜なのは間違いない。そしてナイ君が暮らしていた村はシノビ君とクノ君が暮らしていた里と山をいくつか隔てた場所にある。これは……偶然なのか?)
黒髪の人間は王国内でも滅多に存在せず、しかもナイが発見されたのは辺境の地であり、元々は和国の旧領地だった場所である。その場所には和国の子孫が築き上げた忍者の里が存在し、シノビとクノもそこの出身である。
他にも気になる点は魔物が巣食う森の中でわざわざナイを捨てた事であり、彼の両親はわざわざ魔物と遭遇するような危険な場所に赴いてまで彼を捨てた事にアルトは引っかかりを覚えた。
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