第860話 火の雨
「グガァアアアッ!!」
「うおおおっ!?死ぬぅううっ!?」
「ガオウさん、危ない!!」
火竜の火炎の吐息はマホによって防ぐ事はできたが、直後に火竜は直接攻撃に切り替え、真っ先に狙われたのはガオウだった。火竜はガオウに攻撃を受けた事を忘れておらず、首を伸ばして彼に噛みつこうとしてきた。
ガオウは必死に逃げるが、この時にリーナが彼の後ろに回って蒼月を地面に突き刺す。その結果、蒼月が突き刺した箇所から氷を誕生させて盾と化す。
「グガァッ!?」
「よし、今だ!!」
「ふんっ!!」
リーナが作り出した氷に火竜は妨げられ、その隙にガロとゴンザレスが獣化と鬼人化を発動させ、もう片方の片翼に向けてゴンザレスはガロを投げ飛ばす。
「行くぞぉおおっ!!」
「うおおおっ!!」
ゴンザレスの渾身の力で投げ込まれたガロは火竜の残された羽根に目掛けて突っ込み、彼は剣を振りかざす。そして翌膜に向けて刃を突き刺し、そのまま火竜の元を離れていく。
「グガァアアアッ!?」
「よし、両翼を潰したぞ!!」
「畳みかけろぉっ!!」
「うおおおっ!!」
「てやぁっ」
ガロによってもう片方の羽根を失った火竜は完全に空を跳べなくなり、その間に他の者達が動き出す。アッシュが薙刀を振りかざし、ミイナも如意斧を伸ばして火竜の首元に目掛けて刃を伸ばす。
二人の攻撃が火竜に的中し、火花と金属音が鳴り響く。アッシュはかつてゴブリンキングにも深手を負わせ、ミイナも王国騎士団の中ではテンとルナとランファンに次ぐ怪力の持ち主だが、二人の攻撃は弾かれてしまう。
「ぬおっ!?」
「あうっ!?」
「ミイナ!!アッシュ公爵まで……!?」
「くそっ、なんて硬さなんだい!?」
「グゥウウウッ……!!」
火竜の全身を包み込む鱗は異常なまでに硬く、いくら攻撃しても損傷を与えるどころか鱗を引き剥がせない。特に普通の生物ならば急所である箇所は鱗が非常に硬く、生半可な攻撃が通じない。
災害の象徴とされる竜種ではあるが、それでも過去に騎士団は火竜を倒している。しかし、グマグ火山に生息していた火竜と目の前の火竜の違いは、グマグ火山の火竜はゴーレムキングとの戦闘で弱り果てていた点である。
かつて倒した火竜は既に損傷を負い、死にかけていた状態だった。それに対して今回の火竜は今尚も急成長しており、戦闘を繰り広げる中でも強くなっていく。
(くそっ……こいつはまずいね、こっちの方が体力が切れそうだよ)
この場に存在する全員が昨日の時点から白面や魔物との戦闘のせいで碌に体力も残っておらず、全員が万全の状態とは言い切れない。一応は回復薬の類で怪我は治ったが、それでも疲労が隠しきれなくなってきた。
(せめてナイがいれば……)
心の中で誰もがナイの事を思い返し、彼がこの場にいれば状況は変わる。どんな敵と対峙しようとナイは常に勝利を掴んできた。その事はこの場にいる誰もが知っており、だからこそ彼がここへ来る事に希望を抱く。
しかし、その希望を打ち砕くかの如く火竜は咆哮を放ち、本格的に暴れ始めた。先ほどまでは各自が別々に行動する事で攪乱させていたが、火竜はその場を跳躍すると上空へ移動を行う。
「グガァアアアッ!!」
「空へ飛んだぞ!?」
「馬鹿なっ……羽根を失ったのに!?」
火竜は既に両翼を失い、この状態では如何に火竜と言えども飛行はできない。しかし、火竜の目的は空に逃げる事ではなく、全員の位置を把握して距離を取るのが狙いだった。
跳躍で距離を取った火竜は大きな建物の上に乗り込み、この際に建物が日々が入るが、完全に崩壊する前に火竜は口元を開く。またもや火竜の吐息を放つのかとマホとバッシュは身構えるが、火竜は正面から狙うのではなく、上空に向けて火炎を放つ。
「アガァアアアッ!!」
火竜は上空に向けて火炎放射を行うと、放たれた火炎は空中で無数に分散し、火の雨と化して騎士団と冒険者達に襲い掛かる。その攻撃に対してリーナは蒼月で火を掻き消そうとするが、あまりにも数が多すぎて全員を守り切れない。
「くっ……駄目!?私だけじゃ無理だよ!!」
「落ち着いて、私も撃ち落とします!!」
「ていっ」
リーナ以外にもエルマは魔弓術を駆使して次々と矢を撃ち込み、空から落ちてくる日の塊を撃ち抜く。ミイナも輪斧を投げ込んで次々と炎を打ち落とすが、それでも数が足りない。
マホは自分の元に皆を集めて風属性の魔法で炎を掻き消し、アッシュも薙刀を振り回して炎を打ち払う。動けるに人間は上空から降り注ぐ炎を回避するが、それでも全ての炎を食い止めきれず、建物に引火する。
「やばい、建物に火が……」
「落ち着いて!!いくら燃えようとすぐに消えます!!」
「いや……仮に消えてもまた新しい炎が降ってくるぞ!!」
「くぅっ……リンさん、どうにかできませんの!?」
「無茶を言うな……くそっ、こんな身体でなければ」
風属性の魔法剣を得意とするリンが万全ならば火竜の攻撃を防ぐ事もできたが、今の彼女は立っているのもやっとの状態だった。このままでは王国騎士団が存在する場所が焼き尽くされると思われた時、ここで意外な救世主が現れた。
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