第861話 飛行戦艦
火竜が上空に向けて火炎を吐き出している最中、突如として火竜の頭上に大きな影が出現した。何事かと火竜は顔を上げると、そこには巨大な鮫が浮かんでいた。自分よりも遥かに巨大な鮫を見た瞬間、火竜は驚愕のあまりに火炎を吐き出すのを止めてしまう。
「グガァッ……!?」
最初に空を浮揚する鮫を見て火竜は頭の理解が追いつかず、混乱のあまりに身体を硬直させた。現在の自分よりも何倍もの大きさを誇る巨大生物に戸惑うが、実際の所は火竜が目撃したのは生物でもなければ鮫でもない。
――火竜が目撃したのは急遽ハマーンとアルトの手によって改造を施された飛行船であり、噴射口の動力源である火竜の経験石はシャドウに奪われてしまったが、実は王国が所有する経験石は一つだけではない。
かつてグマグ火山にて倒した火竜の死骸からも経験石が回収されており、その経験石の一部はハマーンも所持していた。彼はそれを利用して急遽新しい動力源として改造し、飛行船を飛ばして火竜の元へ迫る。
更に甲板には以前には搭載されていなかった大型の大砲が存在し、その大砲を操作するのはアルトと彼に付き添っていた王国騎士だった。アルトは火竜に向けて大砲を構え、発射の合図を出す。
「よし、今だ!!」
「はっ!!」
「放てぇっ!!」
大砲の砲口が火竜に向けられると、火竜は初めて見た大砲に反応ができず、次の瞬間に方向から光線の如く電撃が放たれた。大砲に詰め込まれていたのは砲弾の類ではなく、雷属性の魔石を装填していた。
雷属性の魔力が雷撃と化して火竜の元へ放たれ、いかに火竜と言えども雷の速度には対応できず、電撃を受けて悲鳴を上げる。
「グガァアアアアッ!?」
「よし、当たったぞ!!」
「王子、ですがもう……!?」
攻撃が的中した事にアルトは喜ぶが、甲板に搭載した大砲は徐々に熱を帯びてやがて砲身の部分が溶けてしまう。急ごしらえに作り出した魔道具のため、1発撃つのが限界だった。
それでも火竜にこれまでで一番の損傷を与えた事は確かであり、火竜は電撃を受けて痺れたのか街道に倒れ込むと動かず、絶好の好機だった。この時に飛行船を操縦するハマーンの声が響く。
『お主等!!今じゃ、さっさと火竜に止めを刺せ!!』
「この声は……ハマーンか!?」
飛行船からハマーンの声が響くとアッシュは驚老いた表情を浮かべるが、すぐに彼は周囲の皆の様子を伺う。飛行船のお陰で火竜の攻撃は食い止める事ができたが、肝心の他の人間達はこれまでの戦闘で体力を使い果たし、もう誰も戦える状態ではない。
「くそがっ……無茶言うんじゃねえよ、こっちだってもう動けねぞ……!!」
「ううっ……」
「くっ……魔力を使いすぎたか」
先ほどの火竜の吐息の攻撃によって全員が身を防ぐのに体力を使い果たし、マホでさえも魔力が殆ど残っていなかった。しかし、今は痺れている火竜だがいずれは復活して暴れ始めるのは目に見えている。
動けない今のうちに止めを刺すのが一番だが、その止めを刺そうにも誰もが動けない状態だった。しかし、この時に路地裏から現れる人影が存在した。
「ガオウ、何だその姿は!!そっきの威勢はどうした!?」
「お、お前……動けるのか!?」
「えっ……だ、誰?」
「まさか、ゴウカか!?」
路地裏から現れたのはゴウカであり、その姿を見てガオウは驚く。ゴウカは火竜に噛みつかれた際に鎧を破壊され、酷い怪我をっていたはずだが、彼の傷口を見て驚く。
「お前、まさか傷口を焼いて塞いだのか……!?」
「うむ、死ぬかと思ったがな!!マリンのお陰でどうにか命拾いしたぞ!!」
「……助かってない、怪我を塞いだだけで治ったわけでもない」
路地裏からマリンが現れると、彼女は酷く疲れた様子だった。マリンは残された魔力でゴウカの傷口を火属性の魔法で焼く事で火傷で傷口を塞いだのだ。いくら傷口を塞いだからといって怪我が治るわけではないし、逆に感染症を引き起こす可能性もある。
だが、ゴウカからすれば出血を食い止めるだけでも十分であり、怪我の治療など後回しにして彼はドラゴンスレイヤーを構えた。そして倒れ込んだ火竜に視線を向け、彼は気合の込めた雄叫びを上げて走り出す。
「行くぞぉっ!!火竜ぅううっ!!」
「て、てめえっ……また良い所を持って行くつもりか!?」
「くっ……動けるものは後に続け!!」
「ルナはまだ戦えるぞ!!」
「わ、私だって……!!」
聖女騎士団の中からルナは起き上がり、ゴウカの後に続くとそれを見ていたヒイロも立ち上がろうとした。しかし、そんな彼女に対してマホが呼び止めた。
「待て、ヒイロよ……お主にこれを貸そう」
「えっ……こ、これは!?」
「炎華じゃ……お主にはまだ使いこなせぬだろうが、それでも火竜に止めを刺すにはこれしかない」
マホは王城を出る際に持ち込んだ炎華を差し出し、それを受け取ったヒイロは驚いた表情を浮かべる。だが、この場で炎華を扱える可能性があるのは同じ火属性の魔剣「烈火」を扱えるヒイロだけである。
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