第857話 運命の時
「シャドォオオオッ!!」
『ナイィイイイッ!!』
お互いの名前を叫びながらナイとシャドウは最後の力を振り絞り、激しい剣戟の応酬を行う。しかし、シャドウは肉体が死に近付く事に比例して魔力が増幅し、その一方でナイの場合は徐々に魔力が失われていく。
(このままだと押し切られる……けど、もう魔力が……!?)
ナイは肉体に宿った魔力に限界を感じ取り、もう駄目かと思われた時、ここである事に気付いた。それは魔法腕輪に装着した煌魔石が輝きを取り戻しており、聖属性の魔力に溢れていたのだ。
どうして煌魔石が復活したのかは分からないが、ナイは考える暇もなく煌魔石から魔力を引き出し、それを旋斧に流し込む。すると旋斧が纏う聖属性の魔力が強まり、この時にナイは魔力を感じ取って気付いた。
(この温かい魔力は……モモ!?)
旋斧を通じて感じ取った聖属性の魔力は紛れもなくモモの物であり、この時にナイは先ほどモモに抱きしめられたときの事を思い出す。
――はナイを抱きしめた時に魔法腕輪に触れていたらしく、モモは何時の間にか煌魔石に魔力を送り込んでいた。だからこそ魔力を失ったはずの煌魔石が輝きを取り戻し、ナイの最後の味方となってくれた。
旋斧が煌魔石の魔力を吸収した事により、徐々に岩砕剣に纏っていたシャドウが放つ闇属性の魔力を打ち消す。それを確認したナイは渾身の力でシャドウを押し返す。
「うおおおっ!!」
『ぐあっ!?』
ナイがシャドウを突き飛ばすと、シャドウは体勢を崩して片膝を地面に着く。その瞬間を逃さずにナイは旋斧を振りかざそうとしたが、ここで急に力が抜けてしまう。
「えっ……!?」
戦闘の際中に遂にナイの体力の方が限界を向かえてしまい、両足に力が入らずに両膝を地面に付いてしまう。その間にもシャドウは起き上がると、再び岩砕剣に魔力を送り込み、刀身が黒色に染まった。
ヨウの予知夢では漆黒の剣士が振り下ろした大剣の刃によってナイの手にしていた大剣は破壊され、彼が止めを刺される光景を見たという。ナイは現在の状況が正にヨウの予知夢と同じ事に気付き、このままでは自分がシャドウに殺されると確信した。
(まずい、身体が……!?)
どうにかしてナイは身体を動かそうとするが、ここまでの連戦で疲労しきった肉体は思うように動かせず、その間にもシャドウは迫る。彼はナイに向けて大剣を上段に構えると、膝を着いて動けないナイに告げる。
『お前も……英雄の器じゃなかったか』
「っ……!!」
何故かシャドウの言葉には覇気がなく、落胆したような表情を浮かべていた。そんな彼の言葉にナイは悔しく思い、勝手に自分の器を見定めるなと思う。
大剣を構えたシャドウはゆっくりとナイに向けて振り下ろし、その光景を目にしたナイはこのままでは敗北すると悟る。しかし、ここで負けるわけにはいかず、無理やりに身体を動かして旋斧を振り払う。
『死ねぇっ!!』
「うわぁあああっ!!」
振り下ろされた岩砕剣に対してナイは最後の力を振り絞って旋斧を振り払い、二つの大剣の刃が衝突した。同じ鍛冶師に作り出された剣同士が衝突し、その片方に罅割れが生じる。
(そんなっ……!?)
ヨウの予知夢通りにナイの手にしていた旋斧に罅が入り、やがて完全に砕けてしまう。粉々に砕けた旋斧を見てナイは呆然とするが、その間にもシャドウは大剣をナイの頭上に目掛けて今度こそ振り下ろす。
このまま自分が死ぬのかとナイは思った時、ここで彼は無意識に煌魔石に残されていた魔力を旋斧に送り込んでいた。いくら送り込もうと旋斧の刃は砕けたので修復も出来ないが、この時に砕けた刃の部分から異変が発生した。
(嫌だ……負けたくないっ!!)
ナイの強い思いに応える様に旋斧が光り輝くと、砕けた箇所から「光の刃」が出現し、無意識にナイは腕を伸ばす。その結果、光の刃がシャドウの胸元を貫き、彼の身体を貫通した。
「ぐはぁあああっ!?」
「っ……!?」
目の前で起きた出来事にナイ自身も理解が追いつかず、気づいたら彼は自分がシャドウの身体を貫いている事に気付いた。シャドウの肉体は折れた旋斧から誕生した「光刃」によって肉体が貫通し、そのまま彼の身体に纏っていた闇属性の魔力が消え去る。
旋斧が繰り出した光刃の正体は聖属性の魔力で構成された刃であり、この刃は実体はない。だからこそどんな事をされてもこの光の刃を「破壊」する事はできず、正に鍛冶師フクツが思い描いた武器に進化を果たす。
フクツが旋斧と岩砕剣を作り出した理由は何者にも折れぬ武器を作る事だが、皮肉にもフクツの願いは彼が失敗作と告げた「旋斧」が果たしたのだ――
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