第856話 旋斧VS岩砕剣
「うおおおおっ!!」
『がああああっ!!』
「ウォンッ……!?」
ナイとシャドウが旋斧と岩砕剣を同時に叩き付けた瞬間、二人の剣圧によって周囲に衝撃波が発生し、ビャクでさえも近づく事ができなかった。
シャドウの元々の身体能力はそれほど高くはないが、彼の影人形は彼の想像通りに動かす事ができる。シャドウはその特性を生かし、全盛期のリョフの動きを再現する事でナイと打ち合う。
生身の状態ならばナイの一撃を受ければシャドウでは到底太刀打ちはできなかった。しかし、彼は長い時を生きており、様々な武人の戦う姿を記憶に刻んできた。彼が模倣できるのはリョフだけではなく、他の武人の技も繰り出せる。
『ふんっ!!』
「うわっ!?」
ナイを蹴り飛ばすと、シャドウは今度はゴウカのように大剣を横向きに構える。その姿を見てナイは嫌な予感を覚え、咄嗟に旋斧を地面に突き刺して身体を固定させると、シャドウは全力で大剣を横薙ぎに振り払う。
『がああっ!!』
「くううっ!?」
「キャインッ!?」
本物のゴウカのようにシャドウは岩砕剣を振り抜くと、その剣圧だけで周囲の建物に亀裂が走り、あまりの威力に旋斧を地面に突き刺したナイでさえも後方に数メートルも後退してしまう。ビャクに至っては吹き飛ばされ、地面に倒れ込む。
ゴウカの技を真似たシャドウに対してナイは動揺を隠しきれず、これではまるでリョフとゴウカを同時に戦っている事に等しい。しかし、シャドウは手加減せずに次の行動へと移る。
『おぉおおおおっ!!』
「くぅっ!?」
シャドウは今度は大剣を振り回しながら進み、まるでベーゴマの如く刃を回転させながら接近する姿にナイは呆気にとられる。この剣技はリョフとゴウカの技ではなく、シャドウが過去に出会ったとある剣士の技だった。
この技は回転を繰り返す事に威力が増し、本来は使用者の体力の問題で長時間の意地はできないが、シャドウの影の場合は体力など関係なく、攻撃が当たり続けるまで回り続ける事ができた。
「このっ……うわぁっ!?」
『どうした、その程度か!?』
ナイは回転する刃に旋斧を叩き付けるが、遠心力が加わった刃によって弾かれてしまい、逆にナイの方が弾き飛ばされてしまう。生半可な攻撃は通じず、ナイはどうするべきか考えると、ここで地面に視線を向けた。
「これならどうだ!!」
『うおっ!?』
蒼月を扱うリーナのようにナイは旋斧を地面に突き刺すと、この際に水属性の魔石から魔力を引き出し、刃から冷気を放って地面を凍らせる。地面が凍った事でシャドウは足を滑らせてしまい、回転を止める事に成功した。
シャドウは出会ってきたあらゆる人間の技を模倣できるのに対してナイの方もこれまで戦ってきた人間を思い返し、彼等を打ち破る事で成長してきた。今度はテンに教わった大剣の基礎を利用し、更に剛力を発動させて渾身の一撃を放つ。
「だああっ!!」
『ちぃっ!?』
街中に金属音が鳴り響き、ナイの渾身の一撃をシャドウは岩砕剣で受け止める。二つの大剣の刃が振動し、刃が衝突する度に衝撃波が周囲に広がる。
二人の力は人の領域を超えており、最早人同士の戦いではない。正に子供の頃に見た絵本に出てくる勇者と魔王のような戦いぶりを繰り広げ、二人は激しく打ち合う。
『ははっ……マジクの見込んだ通りだ、やはりお前が英雄の器に相応しい男だったか!!』
「だから……何なんだよ、その英雄の器というのは!?」
『それは……俺を殺せば手に入る代物だよ!!』
シャドウはナイこそが自分達が探し求め続けた「英雄の器」だと確信し、手を抜かずに自分の命が完全に尽きるまで戦う。心臓を突き刺しながらシャドウが今尚も生きているのは闇属性の魔力で構成した影の鎧のお陰であり、死にかけている自分の魂すらもシャドウは肉体に抑え込む。
――肉体が死を迎えればそれに宿る魂も何処かへと消え去る。しかし、シャドウは影魔法の応用で全身を闇属性の魔力の膜で包み込み、魂が逃れないように抑え込む。この方法でシャドウは疑似的に死から逃れているが、一瞬でも闇属性の魔力が消えれば彼は生きてはいられない。
彼の死はもう確定しており、夜が明ければシャドウは闇属性の魔力を維持する事もできなくなり、完全な死を迎える。それでもシャドウはナイを試すためだけに命を使い果たす覚悟はできており、岩砕剣を振りかざして次々と技を繰り出す。
『こいつはどうだ!!』
「うわっ!?」
元相棒の「イゾウ」が扱う和国の剣技を模倣し、彼の場合は風属性の魔力を外部に放つが、シャドウの場合は闇属性の魔力を岩砕剣に宿らせ、その魔力を切り離す。
漆黒の刃の衝撃波がナイの旋斧へと襲い掛かり、この際にナイは受け止め切れないと判断して残り少ない魔力を利用して旋斧に聖属性の魔力を宿す。そして漆黒の刃を正面から打ち消すと、シャドウと向かい合う。
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