第858話 信念

「は、ははっ……まさか、こんな隠し玉があったとはな……」

「シャドウ……」

「……俺の、負けだ」



シャドウは胸元を光刃によって貫かれた時点で彼の闇属性の魔力は消え去り、もう既に心臓を潰している彼が助かる手段はない。どんな回復薬も回復魔法も今の彼は受け付けず、やがて旋斧から放たれていた光刃が消え去ると、シャドウはナイの元に倒れ込む。


咄嗟にナイはシャドウを抱き留めると、異様なまでに彼の身体が軽い事に気付く。よくよく考えればシャドウはシンと双子のため、老人といってもおかしくない年齢である。よくよくみると身体も痩せ細っており、何十年も裏社会の頂点に立ち続けた男とは到底思えない程にな肉体だった。


死霊使いは本来は生命力を奪う闇属性の魔力を操るため、その力を行使すれば行使するほどに肉体に負担をかける。最後の攻防は正にシャドウが自分の寿命を削ってまで戦い、もう夜明けを迎える前に彼は死ぬだろう。



「……お前、確か忌み子だったな」

「えっ……」

「俺も、似たようなもんだ……親から望まれて生まれた存在じゃない」



シャドウの言葉を聞いてナイは驚き、彼は死ぬ間際に自分の事を語る。シャドウの場合は「死霊使い」の能力があると判明した時、彼の運命が決まってしまった。


死霊使いはこの世界では異端者として扱われ、その能力を持って生まれた人間は忌み子よりも厳しい人生を送ると言われている。最悪の場合、能力が判明した直後に殺される可能性もある。


シャドウの父親は彼が死霊使いと知った時、彼を殺すのではなく裏社会に送り込んでシンのために働かせようとした。そのために彼は厳しい教育を施し、シャドウを鍛え上げた。結局はシンという存在が居なければシャドウは殺されていた可能性もあり、だからこそシャドウは父親の事を憎み続けた。


結局、シャドウの人生は自分の家族のせいで大きく狂わされたが、唯一の救いはシンだけはシャドウの事を対等な存在として扱い、共に支え合って生き続けた。だからこそシャドウはシンだけは裏切れず、彼が死んでもシンの意思を継いで彼は計画を実行した。



「……最後に、頼みがある」

「えっ……」

「城を、見せてくれ……」



シャドウの言葉にナイは一瞬戸惑うが、彼を抱えるとナイは王城が見える場所に移動する。シャドウは王城を視界に収めると、あの場所で自分が唯一心を許した存在が死んだ事を思い返し、ゆっくりと目を閉じる。



「ナイ……お前は俺のような奴になるなよ」

「シャドウ……」

「……お前は、英雄に……」



最後の言葉を言い終える前にシャドウは動かなくなり、その様子を見たナイは黙って彼の遺体を持ち上げた。今回の騒動を起こした諸悪の根源という事は理解しているが、それでもナイは死んだ人間を無下に扱う事は出来ず、近くの路地裏に運び込む。


今はまだ彼の死体を葬る事はできず、まだ王都の危機は終わってはいない。ナイは刃が砕けた旋斧と地面に落ちていた岩砕剣を拾いあげ、火竜の元へ向かう――







※シャドウにしろシンにしろただの「悪」ではなく、彼らなりの「正義」を抱いた存在として描きたいと思いました。勿論、彼等のした事は許される行為ではないですが、それでもただの純粋な悪ではなく、自分なりの強い信念を抱く存在として描けたと思います。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る