第851話 総力戦

「うおおおおっ!!」

「アガァッ……!?」

『ぬうっ!?』

「えっ!?」



火竜の元に目掛けて何者かが飛び込み、手にしていた剣を火竜の左目に向けて突き刺す。派手な血飛沫が舞い上がり、火竜は悲鳴を上げて加えていたゴウカを吐き出してしまう。


火竜の左目の眼球に攻撃を仕掛けたのはロランであり、彼はシャドウを追う際に地上に出た後、火竜の存在に気付いて攻撃を仕掛けた。だが、紅双刃を失った彼の手元には部下から借り受けた剣しかなく、残念ながら左目を斬りつけても仕留める事ができなかった。



「グギャアアアッ!?」

「ぐううっ!?」



左目を貫かれた火竜は悲鳴を上げて首を振り回し、この際にロランは振り落とされないようにしがみつくが、火竜は近くの建物に目掛けて首を叩き付ける。


建物の壁に叩き付けられたロランは吐血し、そのまま建物の壁を破壊して中に転がり込む。その間に火竜はどうにか左手に突き刺さった剣を振り落とすが、失われた眼球は戻る事はない。



「グガァアアアッ!!」

「ぐううっ……!!」

『がはぁっ……』



ロランは建物の中に倒れ込み、ゴウカの方も地上に落ちてからは動かず、二人とも普通ならば戦える状態ではない。しかし、火竜は二人を睨みつけると口元を開き、この周辺一帯を焼き尽くそうと火竜の吐息を吐き出そうとした。



「アガァアアアッ……!!」

「フレイムランチャー!!」

「ブフゥッ!?」



しかし、大口を開いた瞬間にマリンが魔法を放ち、彼女火属性の魔力で構成された光線を放つ。口元から火炎を吐き出す前に彼女の放った攻撃によって火竜の口元で火属性の魔力が暴発し、火竜の巨体が地面に倒れ込む。


火竜は思いもよらぬ反撃を受けて怯み、その間にマリンは次の魔法の準備を行う。彼女は杖を掲げると、今度は天空に魔法陣を描き、火竜に向けて特大の火球を放つ。



「メテオ!!」

「グガァアアッ!?」



火竜に目掛けて火球は隕石の如く放たれ、爆発を生じると火柱が上がる。大型の魔物でも一撃で吹き飛ばす程の威力だが、マリンはここで致命的な失敗ミスを犯した。それは火竜を相手に火属性の魔法を使った事だった。



「ガアアアッ……!!」

「……えっ?」



火柱に飲み込まれた火竜だったが、火柱の中で火竜の影あらわれ、大きく吸い込むと彼女の放った炎を吸いつくす。火竜はマリンの放った火属性の魔法を吸い上げ、より成長を果たす。


自分の魔法を喰らった火竜に対してマリンは呆然と立ち尽くし、もう魔力は殆ど残っていなかった。彼女の犯した失敗ミスは一番慣れている火属性の魔法を乱用した事であり、火属性の魔力を操る火竜は当然ながら火属性の耐性を持ち合わせ、更に普段から火山の魔石を喰らう火竜からすれば火属性の魔力は好物その物である。



「グガァアアアアッ!!」

「うっ……」

「くっ、くそっ……!!」

『…………』



マリンは火竜の迫力に腰が抜け、ロランは悔し気な表情を浮かべて立ち上がろうとするが、全身の骨が折れて動く事もままならない。ゴウカは動く様子すらなく、このまま3人は殺されるかと思われた時、何処からか斧が飛んできた。



「グガァッ!?」

「……当たった、けど効いていない」



火竜の額の部分に斧が的中すると、火竜は一瞬だけ怯んだがすぐに斧が投げつけられた方向に視線を向ける。そこには火竜の額に弾かれた「輪斧」を回収するミイナの姿が存在し、彼女の他にもヒイロやガオウやリーナの姿があった。


実は火竜が現れた場所は商業区であり、下水道の地下施設の秘密の抜け道から近い場所だった。火竜が暴れた際に地下施設でも異変を感じ取った白狼騎士団と冒険者達は地上へ戻ると、そこにはロラン達を襲う火竜を見て彼等も戦闘に参戦する。



「おいおい、マジかよ……シャドウの次は火竜か!?」

「ど、どうして火竜が……」

「考えるのは後回し……とにかく、倒すしかない」

「だ、大丈夫だよ!!前にあった火竜よりは小ぶりだし……僕達が力を合わせれば勝てるよ!!」



火竜を目の前にしたミイナ達は唖然としたが、すぐに全員が火竜を倒す事に頭を切り替え、それぞれが武器を構えた。ガオウは火竜との戦闘では参加していなかったので始めて見る火竜に戸惑うが、ヒイロ、ミイナ、リーナの3人は火竜との戦闘は経験済みのため、即座に冷静さを取り戻す。



「グガァアアアッ!!」

「来るぞ、散れっ!!」

「はい!!」

「行くよっ!!」

「とうっ」



新たに現れたヒイロ達に対して火竜は尻尾を振り払い、その行動を見た4人はそれぞれが跳躍して別の場所に降り立つ。他の女子3人が建物の屋根の上に降り立つのに対してガオウは振り払われた尻尾の上に降り立つと、両手に装着した鉤爪で攻撃を仕掛ける。



「おらぁっ!!」

「グガァッ……!?」



魔法金属製の鉤爪でガオウは火竜の鱗を削ろうとしたが、火竜の全身を覆う鱗は彼が手にした武器よりも硬度が硬く、逆に爪が弾かれてしまった。ガオウは火竜の鱗の硬さに冷や汗を流し、その一方で火竜は自分の身体に乗り込んだガオウを吹き飛ばすために胸元を赤く光り輝かせる。

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