第843話 形あるものはいずれ壊れる

「……この扉の向こう側が地下施設だろうが、どうやら内側でしか鍵を開けられないようだな」

「団長、どうしますか?」

「仕方ない……破壊するしかあるまい」

「え、壊すんですか?」

「ああ、他に隠し通路があるとも思えん。仮にあったとしても探す時間も惜しい……力を貸してくれ」



ロランは双紅刃を構えると、魔力を残された刃に集中させる。それを見たナイは背中の旋斧と岩砕剣を引き抜き、彼に倣って地属性の魔力を送り込む。


旋斧は地属性の魔力を外部に放出し、岩砕剣は地属性の魔力を宿す事で刃の重量を増加させる。ロランはこの扉を破壊するには自分一人の力では無理だと判断し、ナイと他の騎士達にも告げた。



「今から俺とナイが攻撃を仕掛ける!!お前達は俺が合図したらこの扉に突っ込め!!」

『はっ!!』

「よし、行くぞナイ!!」

「はい!!」



双紅刃を構えたロランは扉の隙間に向けて勢いよく貫き、この際に双紅刃の刃が隙間の中に挟まると、彼はナイに命令を与えた。



「俺の槍に向けて剣を振れ!!」

「えっ!?でも、そんな事をすれば……」

「構わん、壊せっ!!」



ロランの言葉を聞いてナイは衝撃を受けるが、ロランは自分の槍が砕けても構わず、ナイに攻撃を命じた。彼の覚悟を感じ取ったナイは一瞬躊躇したが、即座に命令に従って両手の大剣を振りかざす。



「うおおおおっ!!」

「ぐぅっ!?」

『くっ……!?』



最初に岩砕剣を叩き付けた後、その刃に目掛けてナイは旋斧を叩き込む。重量を増加させた刃に更に重力が加わり、扉の隙間に入り込んだ双紅刃が更に押し込まれるが、同時に双紅刃に亀裂が走る。


あと少しで扉を抉じ開けられそうだが、これ以上の衝撃を与えたら双紅刃は砕けてしまう。大将軍を長年支え続けてきた魔剣を壊す事になるが、ロランは構わずに騎士達に命じた。



「今だ!!お前達も扉を押せぇっ!!」

『うおおおおっ!!』



ロランはナイの背中を支えると、騎士達に命じた。騎士達は扉に向けて駆け出すと、全力で体当たりを食らわせる。その結果扉は内側へと押し込まれ、やがて双紅刃が砕け散るのと同時に扉は強引押し開かれた。



「あ、開いたぞぉっ!!」

『うおおおおっ!!』



扉をこじ開ける事に成功した騎士達は歓声を上げるが、ナイの方は砕けた双紅刃を見て何とも言えぬ表情を浮かべる。扉を上げるためとはいえ、大将軍の武器を犠牲にしてしまった事にナイは後ろめたさを覚えるが、そんな彼の肩をロランは掴む。



「気にするな」

「ロラン大将軍……」

「形ある物はいずれ壊れる……この双紅刃もここで壊れるのが定めだ」



双紅刃の破片を拾い上げ、血が滲むのも構わずに握りしめる。その態度を見てナイはロランにとって双紅刃がどれほど大切な物だったのかを思い知り、それでも目的のために躊躇なく武器を破壊することを命じたロランの覚悟に感動した。


目的のために長年の相棒を失ったにも関わらず、ロランは決して落ち込まず、任務に専念する姿にナイは大将軍の偉大さを感じとる。ナイ達は遂に敵の本拠地に辿り着き、周囲を見渡す。



「ここは……何だ?」

「雰囲気が……おかしいですね」



この場所は白面の地下施設の中でも一番重要な場所だと思われたが、ナイ達が辿り着いたのは円形状の広間で有り、ナイが以前に訪れたクーノの白面の地下施設とは雰囲気も外観も全く異なる。


施設の割には研究器材も見当たらず、存在するのはと奇妙な形をした台座だけだった。そして棺桶の上に座り込む人物が存在し、それを見たナイとロランは目を見開く。



「えっ……宰相!?」

「…………」

「いや、違う……貴様、何者だ!?」



ナイが驚いたのは棺桶に座っている人物が宰相と容姿が瓜二つであり、一方でロランの方は老人の顔を見てシンではない事に気付く。実の父親を見間違えるはずがなく、この禍々しい気配を放つ人物は一人しかいない。



「久しぶりだなロラン……そして、ナイといったな。よくここまで辿り着いた」

「えっ……」

「気を抜くな、ナイ!!こいつは俺の父ではない……シャドウだ!!」




――シャドウとナイはここで初めて対峙した。お互いの存在は知っていたが、こうして直に顔を合わせるのは初めてだった。




遂に死霊人形ではなく、シャドウ本人と遭遇したナイは武器を構えるが、自分が想像した人物像とはかなりかけ離れた人物だった。この国の悪の親玉といっても過言ではない存在なのだが、何故かシャドウを見た時にナイは不思議な感覚を覚える。



(何だろう、この人……誰かに似ている。いや、似ているというか……)



シャドウの姿を見てナイは言いようのない感覚を覚え、言葉に表しにくい感情を抱く。こうしてシャドウと顔を合わせたのはナイは初めてのはずなのだが、何処かで彼と似た雰囲気の人物を見たような気がしてならなかった

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