第842話 最後の刺客
「――団長、見つかりました!!ここに隠し階段が!!」
「やはりあったか……」
「本当にこの場所にあるなんて……」
時は少し前に遡り、シンの屋敷を猛虎騎士団が捜索した結果、書斎にて地下に通じる階段が発見された。本棚の後ろに隠されており、この場所に隠し階段がある事はロランも知らなかった。
階段を覗き込んだナイは冷や汗を流し、この先が地下施設に繋がっていた場合、十中八九シャドウが待ち構えているはずだった。そして行方不明のシンもいる可能性があり、緊張感を抱くなと言う方が無理な話である。
「……行くぞ」
「「「はっ!!」」」
ロランが先導してその後に騎士達も続く。ナイはロランの隣を歩き、慎重に階段を降りていく。階段の中は意外と明るく、光石が入ったランタンが天井に吊るされていた。
階段を下り切ると通路に辿り着き、下水道ではないのか特に臭いは感じられない。しかし、奥へ進むほどに異様な気配を全員が感じ取り、先頭を歩くロランとナイは前方の方角から殺気を感じとる。
「気付いたか?」
「はい……何かが待ち構えていますね」
「この気配、闇属性の魔力も混じっているな」
通路の奥に闇属性の魔力を宿す存在が居る事を感じ取ったロランは双紅刃を構える。だが、彼の双紅刃は既に片刃が砕けており、武器としての性能は落ちていた。
ロランの武器を見てナイは自分が彼の代わりに戦うべきだと考え、背中に抱えた旋斧に手を伸ばす。リョフとの戦闘で刃が砕けかけた旋斧だが、既にナイの聖属性の魔力を吸い上げた事で復元しており、問題なく扱える。
(この気配はシャドウなのか……?)
ナイはシャドウの本体とは一度も対峙した事はなく、これまでに遭遇したのはシャドウが操る死霊人形だけであった。しかし、それらの死霊人形から感じられた同じ気配が通路の奥から感じられ、この時に奥川の方から近付いてくる足音が鳴り響く。
――シャアアアッ!!
姿を現したのはリザードマンであり、通路に立ったリザードマンは大口を開くと、ナイ達に目掛けて胸元を膨らませる。この時にリザードマンの額に埋め込まれた火属性の魔石が光り輝き、体内の死霊石の闇属性の魔力を合わせ、黒炎を口元から放射した。
一本道の通路内に黒炎が放射され、ナイ達には後方以外に退路はなかった。迫りくる黒炎を見てロランは双紅刃を咄嗟に構えるが、先に動いたのはナイだった。
「はあああっ!!」
「アガァッ!?」
通路の奥から迫りくる黒炎に対してナイは旋斧を振りかざし、信じられない事にリザードマンに向けて投げつける。火炎の吐息を放つときのリザードマンは隙だらけであり、途中で火炎の放射を止める事はできないのはナイもこれまでの戦闘で学んでいた。
投げ放たれた旋斧は黒炎を掻き散らしながらリザードマンの顔面へと迫り、そのまま大顎を開いていたリザードマンの口元を貫く。頭部に旋斧が貫通したリザードマンは黒炎を吐き出す事もできず、胸元が膨らんで内側から黒炎が噴き出して弾けちる。
「ぬおっ!?」
「「「うわっ!?」」」
「ふうっ……危なかった」
リザードマンの身体が焼け崩れると、その様子を見ていたロランと他の騎士達は唖然とするが、ナイは冷静な態度でリザードマンの元に駆け出す。破裂したリザードマンの死骸から旋斧を引き抜き、刃にこびり付いていた黒炎をみてすぐに聖属性の魔力を送り込む。
「消えろっ!!」
旋斧に聖属性の魔力を送り込むと、刃に張り付いていた黒炎は消え去る。それを確認したナイは背中に戻すと、リザードマンの死骸に視線を向け、砕けた死霊石を見て全員に声をかける。
「終わりました!!もう通っても平気ですよ!!」
「……流石だな」
「「「は、はあっ……」」」
ナイの言葉を聞いてロランは口元に笑みを浮かべるが、他の騎士達は信じられない表情を浮かべていた。まだ成人年齢にも満たしていない子供が死霊人形と化したリザードマンを呆気なく倒したという事実に戸惑う。
しかし、既にナイの強さはリョフを打ち破った時に証明されており、ロランはもう彼の事は子供だとは思わず、心強い味方として扱う事にした。
「ナイ、よくやった」
「え、あっ……ありがとうございます」
「よし、行くぞ」
「「「はっ!!」」」
ロランはナイの肩に手を置き、その何気ない行為にナイは嬉しく思い、この国の大将軍に認められたと実感する。しかし、喜んでばかりはいられず、ナイは気を取り直して通路を突き進む――
――やがて通路は徐々に広くなり、遂には漆黒の金属の扉が立ちふさがる。ロランは扉を確認すると、鍵穴のような物は確認できず、押しても引いてもびくともしなかった。
この扉は闘技場の魔物を閉じ込めるための広間の扉と同じ材質であり、王国騎士の中では五本指に入るドリスの攻撃でさえも表面を少し凹ませる事しかできない程に頑丈な扉だった。その扉の前に立ったロランは内側から鍵を掛けられている事に気付き、どのように突破するのかを考える。
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