第836話 吸血鬼の真の姿
「――はあっ、はあっ……どいつもこいつも、僕を馬鹿にしやがって……!!」
昼間にナイに敗れ、拘束されていたはずの吸血鬼はドリス達が地下施設の広間に入り込むのを確認すると、彼はドリス達を広間に閉じ込める。広間の扉の鍵は外側からしか掛けられず、内側からでは絶対に開く事はできない。
吸血鬼はドリス達を閉じ込めた事で少しは気が晴れたが、それでも自分に屈辱を味わわせた人間達の怒りは収まらない。彼は地上に続く階段を上りながらこれまでの出来事を思い返す。
――実を言えばこの地下施設に存在する魔物を解放したのはこの吸血鬼の仕業だった。彼は以前に白猫亭の事件で捕縛されたが、あの後に宰相が内密に彼を引き取り、吸血鬼の能力を惜しんだ彼は何かに使えると思って生かしておいた。
表向きは吸血鬼は闘技場で管理されているはずだったが、密かに宰相は地下施設の方に移動させ、吸血鬼を他の魔物と同様に檻の中に閉じ込める。
『くそっ、ここから出せ!!人間めっ!!』
『随分と生きが良い奴が来たな……うるさくてたまらねえな』
『こんな奴、俺達にどうしろってんだよ』
檻の中に捕まっている間は吸血鬼は白面の世話を受けるが、彼等は吸血鬼の事を他の魔物と同列に扱い、決して丁重には扱わなかった。一応は宰相の命令で吸血鬼を保護したが、彼等からすれば吸血鬼など魔物と大差ない存在だった。
『ほら、さっさと飯を喰えっ!!』
『うえっ……こんな物、食べられるか!!血を寄越せ!!』
『うるせえ奴だな……おい、こいつを指導しろ!!』
『や、止めろっ!?』
吸血鬼が反抗的な態度を取る度に白面は彼を痛めつけ、檻の中に閉じ込めた。吸血鬼は何度も逆らい、その度に指導という名目の虐待を受けた。やがて吸血鬼は抵抗を諦め、表面上は大人しくして脱走の機会を伺う。
(殺してやる……一人残らず、必ず!!)
捕まった後の吸血鬼は隙を見て自分を殴りつける白面から針金を盗み出す。ただの針金ではなく、恐らくは暗殺用に用いる道具だと思われたが、それを利用して吸血鬼は監視の目がない隙に鍵を針金で開こうとした。
時間は掛かったが吸血鬼は針金を利用して外に脱出する事に成功し、隙を突いて魔物達に餌を与える人間を襲う。吸血鬼にとって幸運だったのは餌を与える人間は白面ではなく、世話係として誘拐された人間だった。
『このっ!!』
『ぐあっ!?』
檻を脱出した吸血鬼は世話係を殺害し、この際に魔物達を解放するために鍵束を盗み出す。その後は吸血鬼は鍵で次々と檻の中に閉じ込められた魔物を解放し、異変を察知した白面達の相手を差せる。
『プギィイイッ!!』
『グギィイイッ!!』
『グオオッ!!』
『な、何だ!?』
『ま、魔物が出てきて……ぐあっ!?』
広間の様子を白面が調べに来た瞬間を逃さず、魔物達は扉が開かれた瞬間に強行突破して白面達へと襲い掛かる。この時に吸血鬼はどさくさに紛れて地上へ脱出し酔うとした時、彼の前に予想外の人物が現れる。
『やってくれたな、クソガキが』
『お、お前は……シャドウ!?』
吸血鬼の前に現れたのはシャドウであり、彼の存在は吸血鬼もよく知っていた。裏社会の間では最も恐れられる存在であり、吸血鬼でさえも彼の未知の力に恐怖を抱く。
この時に吸血鬼はまだ宰相であるシンとシャドウが繋がりがある事を知らず、シャドウからすれば重要な白面の施設を無茶苦茶にした吸血鬼を逃す事はできなかったが、それでも地力で脱走を試みた事は評価した。
『おい、このまま俺に殺されるか、それとも俺の僕として生きていくか、どちらかを選べ』
『な、何だと……僕は吸血鬼だぞ!?人間なんかの僕なんて……』
『そうか、なら……殺すだけだな』
『ひっ!?』
シャドウは吸血鬼の言葉を聞いて杖を構えると、吸血鬼は彼の放つ闇属性の魔力に恐怖を抱いて腰を抜かしてしまう。その様子を見たシャドウは杖を下ろし、もう一度だけ機会を与える。
『答えろ……俺に忠誠を誓うか?』
『……は、はい……!!』
吸血鬼はその後、シャドウの指示通りに自分の血を利用してリザードマンとゴブリキンラー(後のリザードゴブリン)を配下に加え、彼の言う通りに行動を起こす――
――見下していた人間のシャドウに吸血鬼は従ってしまい、その後はナイと運悪く交戦してしまい、再び彼はナイに敗れてしまった。その後、吸血鬼は騎士達に拘束されて屯所に送り込まれたが、時間帯を夜を迎えた途端に彼の力は覚醒させる。
吸血鬼が真の力を発揮できるのは「満月」の時であり、そして今宵は運よく満月だった。真の力を取り戻した吸血鬼は屯所を地力で脱出した後、シャドウの元へ訪れた。
最初は真の力を取り戻した事で自信を取り戻し、吸血鬼は自分に恥を掻かせたシャドウを殺すつもりで彼の前に戻ってきた。しかし、シャドウも吸血鬼と同様に夜を迎えると魔力が増大し、より圧倒的な存在へと変わり果てていた。
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