第837話 復讐の誓い

『……誰かと思えばお前か、いったい何の用だ?』

『ふんっ……調子に乗っていられるのも今の内だぞ!!』



吸血鬼はシャドウの元に辿り着くと、何故か彼は前回に会った時と比べて気落ちしており、その様子を見て吸血鬼は調子に乗ってしまった。


満月を迎えた事で真の力を取り戻した吸血鬼は今ならばシャドウに勝てると思い込んでいたが、彼はシャドウの様子を見て傲慢にも自分の力に恐れを抱いていると判断した。だからこそ吸血鬼は彼に襲い掛かろうとしたが、勝負は一瞬で終わる。



『人が苦労している時に……このガキがぁっ!!』

『ぎゃあああっ!?』



シャドウの背後に出現した「漆黒の巨人」によって吸血鬼は身体を掴まれ、危うく肉体が引きちぎられそうになった。彼は必死に逃れようとしたが、満月によって真の力を取り戻した彼でも振りほどけない。



『ひいいっ!?ゆ、許して……許してください!!』

『何が許してだ?俺に逆らうとどうなるのか……たっぷりと教えてやる』

『お願いします、殺さないで……もう貴方に二度と逆らいません、だからっ……!!』

『……ちっ、ガキが』



本当の子供のように泣き叫ぶ吸血鬼の姿を見てシャドウは漆黒の巨人から彼を解放すると、吸血鬼はもがれそうになった四肢を解放され、涙を流しながら跪く。


自分を裏切って殺しにかかろうとした相手など、いつものシャドウならば殺していてもおかしくはない。だが、吸血鬼を殺すには惜しい能力を持っており、吸血鬼に対してシャドウはもう一度だけ機会を与えた。



『今すぐにお前が従えていた魔物の死体を運び出して来い、そうしなければぶっ殺すぞ』

『えっ……あ、あいつらを?』

『俺に二度も言わせるつもりか?』

『ひいっ!?は、はい……すぐに連れてきます!!』

『待て』



シャドウの命令を受けて吸血鬼はその場を離れようとしたが、そんな彼に対してシャドウは髑髏の紋様が刻まれた首輪を放り込む。その首輪を受け取った吸血鬼は戸惑うが、そんな彼に対してシャドウは今すぐに装着するように告げる。



『そいつを付けろ、今すぐにだ』

『えっ……こ、これは?』

『…………』

『は、はい!!すいません、もう二度と質問しません!!』



何も答えないシャドウに吸血鬼は顔色を青ざめ、即座に首輪を装着した。その瞬間、首輪に刻まれた髑髏が光り輝き、唐突に首輪が締まり始めて吸血鬼は首元を圧迫された。



『あがぁっ!?』

『そいつは特別な呪具でな……俺に逆らおうとすると、勝手に締まる。勿論、俺の石で首輪を締め付ける事もできる。解除できるのはこの俺だけだ』

『そ、そんな……がああっ!?』

『また逆らったり、俺の意思に反した行動を取れば……どうなるか分かってるな?』



シャドウの言葉に吸血鬼は必死に首を頷き、こうして彼はシャドウの指示通りに命令に従い、リザードマンとリザードゴブリンの死骸を地上から彼の元まで運び込む――






――リザードマンとリザードゴブリンを運び出す際、吸血鬼は闘技場内部の地下施設に繋がる抜け道を利用した。地下施設には実は各施設に繋がる秘密の隠し路が存在し、それを通り抜けるとシャドウが待つ中央の施設に辿り着ける。


吸血鬼が苦労して運び出した死骸はシャドウの手によって死霊人形として蘇り、地上を荒し回って人々を恐怖に駆り立てる。そして吸血鬼の方はシャドウの指示により、邪魔者を排除する様に命じられていた。



(くそっ、こんな物がなければ……!!)



吸血鬼は自分の首に取り付けられた首輪を引き剥がそうとするが、触れただけで髑髏の目元が光り輝き、自動で締め付ける。そのために吸血鬼は首輪を外す事が出来ず、シャドウには逆らえない。吸血鬼はシャドウから逃げる事も逆らう事もできず、命令通りに邪魔者の排除に尽力した。



(くそくそくそっ……忌々しい人間めっ!!)



吸血鬼は首輪さえなければ自分が自由に動けるのだが、今すぐにでもシャドウを殺しに向かいたいところだが、彼との力の差は嫌でも思い知らされた。そこで吸血鬼は対象を変更させ、こうも自分を追い込んだナイに復讐を誓う。



(そもそもあいつのせいだ!!あいつさえ現れなければ……!!)



ナイに出会った時から吸血鬼は不運続きであり、シャドウよりも先に吸血鬼はナイへの復讐を果たすために行動を起こす。ナイもシャドウにとっては邪魔者である事は間違いなく、吸血鬼の行動を首輪が戒める事はない。



(あいつ、何処にいるんだ?今度こそ殺してやる……待てよ、そういえばあの宿屋にあいつの知り合いがいたよな……)



街中を移動中、吸血鬼は最初にナイと遭遇した時の事を思い出し、彼は白猫亭にてナイが捕まった人たちを助けに来た事を思い出した。あの宿屋の人間とナイが親しい間柄である事は吸血鬼も知り尽くしており、彼は白猫亭に向かう事にした――

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