第835話 檻を解放したのは……
「副団長、やはりどの檻も明らかに鍵を開けられています!!」
「という事は誰かが魔物を故意に逃がした?けど、いったい誰がそんな事を……」
「この施設を管理する白面も死んでいるという事は、白面の仕業ではない……?」
「それにリザードゴブリンとリザードマンの死骸がここへ運び込まれたのは気になりますわ……待ってください、運び出された?」
ここでドリスはある事に気が付き、どうして今まで疑問に抱かなかったのかと頭を抱える。リザードマンにしろ、リザードゴブリンにしろ、どちらも巨体で体重も重い。そんな存在を運び出すにはかなりの人手が必要になる。
ナイに倒されたリザードマンとリザードゴブリンを復活させたのは死霊使いのシャドウである事は間違いない。しかし、それならば死骸をシャドウの元に運びんだのは何者なのか、少なくともシャドウ自身の犯行とは思えず、他に考えられるとしたら白面だけだが、それならば何故彼等がここで死んでいるのか疑問が尽きない。
(白面に死骸を運ばせた後に魔物を解放して殺した?いや、それはおかしいですわ。白面も魔物を同士討ちさせる理由なんてありませんし……もしや、これはシャドウにとっても予想外の事故ですの?)
シャドウが施設を管理する白面と魔物をわざわざ戦わせて殺し合いさせる理由などなく、今回の事態はシャドウの仕業とはドリスには到底思えなかった。
魔物が解放した存在がシャドウではない場合、他に考えられるのは白面に敵対意識を抱く存在だけだが、この秘密の地下施設の存在を知っている人間がそれほど多いとは思わない。しかし、現に魔物の檻を解放した存在はいるはずであり、ドリスは自分が何か見落としているのかと考える。
(いったい誰が檻を解放したんですの……)
ドリスは開け開かれた檻を確認し、犯人は檻を開く鍵を所持していた場合、やはり施設を管理する人間が怪しい。白面の仕業でなければ彼等に攫われて強制労働されていた人間の仕業かと思ったが、この時にドリスは鍵穴を確認して驚愕する。
「こ、これは……」
「ドリス様、どうされました?」
一番奥の檻を確認した所、ドリスは檻の中に松明の光を反射して輝く物を発見してそれを取り上げる。その正体は「針金」であり、しかも扉の鍵を確認すると何かにひっかいたような痕跡が残っていた。
彼女が発見した檻だけは何故か鍵穴の部分が何度も細い針のような物で削られた跡が存在し、誰かが鍵穴に針金を差し込んで何度も鍵を開けようとした痕跡を発見する。しかもこの針金と鍵穴を開こうとした痕跡はこの檻の中にしか残っておらず、この時に騎士の一人が声を上げる。
「副団長!!こっちにも死体が!!」
「何ですって!?」
ドリスは騎士の声を聞いて赴くと、そこには頭から血を流して倒れ込む人間の死体が存在した。その死体の傍には何故か大量の果物が落ちており、他にも籠があった。
どうやらこの人間は大量の果物を入れた籠を運んでいる途中で何者かに襲われ、頭を強打されて殺されたらしい。そして別の場所を探索していた騎士が声を上げる。
「副団長!!この檻の前に鍵束が落ちていました!!恐らく、この広間にあるすべての檻の鍵だと思います!!」
「鍵束!?」
男の死体から離れた場所に鍵束が落ちており、騎士が持って来た鍵束は血で汚れていた。しかし、血は既に固まっており、そして倒れている男も大分前に死亡したらしく、頭から流れている血は固まっていた。
大量の果物が入っていたと思われる籠、そして魔物の檻の前で倒れる男、何者かが使用したと思われる鍵束、これらの事から導き出される答えは一つだった。
「この方……もしかして魔物に餌を与えようとしていたのでは?餌役を任されていた人間ではないですの?」
「では……この男は魔物を餌をやろうとした時に何者かに襲われ、そいつが檻を開く鍵束を奪い、魔物達を解放したと?」
「そう考えるのが妥当ですわね。そして私が見つけた針金と扉の鍵穴……」
ドリスは緊張した面持ちで先ほど針金を発見した檻の中に戻ると、彼女は檻の表札を確認する。嫌な予感がしたが確認しないわけにはいかず、確かめてみるとそこには信じられない文字が記されていた。
「……吸血鬼?」
――そこに書かれていた文字をドリスが確認した途端、広間に繋がる扉の方から音が聞こえ、何者かが外から鍵を掛けたようだった。しかも鍵を掛けた途端に走り出す足音が鳴り響き、ドリスは罠に嵌められたと気付く。
「しまった!?」
「副団長!?」
即座にドリスは扉の元へ駆け出して開けようとしたが、扉はびくともせず、彼女は仕方なく真紅を構えて破壊しようと試みる。
「爆槍っ!!」
「うわぁっ!?」
ドリスは真紅から爆炎を放ち、扉に向けて突っ込むが予想以上の硬度で彼女の方が弾かれてしまう。ドリスの渾身の一撃でも扉の表面を少し凹ませる程度が限界であり、想像以上の扉の硬さに彼女は驚く。
しかし、考えてみれば扉が頑丈なのは当然の話であり、この広間は魔物を閉じ込めるために設計された広間である。万が一にも魔物が現れた場合、外に出させないように扉を頑丈な造りにするのは当たり前の話だった――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます