第834話 黒狼騎士団の危機

「――ドリス様、見つけました!!隠し通路です!!」

「やはりここにありましたのね!!」



闘技場内には既にドリス達が乗り込んでおり、彼女は地下施設に通じる抜け道を発見した。地下施設に繋がる抜け道はなんと闘技場の試合場の真下に隠されており、石畳を取り外すと階段が出現した。まさか試合場にこのような仕掛けがあるなど思いもしなかったが、偶然にも騎士の一人が試合場から続く血の跡を発見した。


昼間にナイが倒した死骸の内、リザードマンとリザードゴブリンの死体は消えていた。しかし、死体が運び出された痕跡が残っており、それを辿ると闘技場に続いている事からドリスは闘技場内に乗り込む。そして遂に秘密の抜け道を見つけ出し、ドリス達は乗り込む。



「さあ、行きますわよ!!」

「ドリス様!!ここは斥候を送った方が……」

「いいえ、多少の罠があったとしてもここは私が乗り込みますわ!!」



隠し階段を真っ先に降りようとするドリスを他の者が引き留めるが、ドリスは時間を惜しんで先行する。仮にこの先に罠が仕向けられていようと、ドリスは昼間の屈辱を晴らすために階段を降りていく。


階段は地下深くにまで続いており、騎士達は松明を片手に降りていく。罠を警戒しながら進んでいくと、やがて扉が出現した。その扉は巨人族でも潜り抜けそうな程に大きく、それを確認したドリスは真紅を構えた。



「私の爆槍でこじ開けますわ!!」

「ま、待ってください!!この扉……鍵が掛かっていないのでは?」

「えっ?」



ドリスが真紅を構えると、慌てて他の騎士達が止めて扉を指し示す。確かに暗闇でよく分からなかったが、扉はほんの僅かだが開いており、騎士達が力を合わせて押し込むと扉は呆気なく開かれた。



「鍵が開いている……不用心ですわね、それともやはり罠でしょうか?」

「ドリス副団長、どうしますか?」

「進むしかありませんわ。例え罠であろうと……ここまで来た以上はただでは引き返せません」



騎士達を引き連れてドリスは扉の内側に入り込むと、この際に騎士達は袋を取り出す。彼等が取り出したのは「光石」と呼ばれる聖属性の魔石であり、名前の通りに光り輝く魔石で騎士達の持つ松明よりも光量が強い。


周囲を照らすために騎士達は光石を辺り一帯に投げ込み、暗闇を照らそうとした。しかし、その結果として彼等は信じがたい光景を目の当たりにした。



「うっ!?」

「こ、これは……」

「ひ、酷い……全員、死んでいるのか?」



地下施設内には大量の死体が並んでおり、それを見た騎士達は口元に手を抑え、吐き出しそうになったがどうにか堪える。ドリスも顔色を青ざめ、彼等が見たのは大量の白面の死体と魔物達の死骸だった。




――施設内には多数の種類の魔物が倒れており、その中には白面や彼等に拉致されて協力されていたと思われる一般人の姿もあった。全ての死体が酷い有様であり、共食いでもしたかのようにまともな状態の死体は一つも残っていない。




ドリスは死んでいる人間の顔を見て目を反らし、その一方で施設を管理するはずの白面までも死んでいる事に疑問を抱く。見た限りでは多数の種類の魔物が倒れており、恐らくは闘技場に運び込まれた魔物だと思われるが、こんな場所でどうして死んでいるのか疑問を抱く。


死体を横切りながらドリス達は奥へと進むと、一本道の通路が存在した。その通路の方も血が酷く、死体が横たわっていた。それを見たドリスは嫌な予感を浮かべ、騎士達に警戒する様に注意する。



「……周囲を常に警戒して進みますわよ。ここで何が起きたのか確かめなければなりません」

「は、はい……」

「うぷっ……」



血生臭い通路の中にドリス達は足を踏み入れようとした時、この際に死んでいると思われたオークの死骸が動き出し、その下からドリス達の様子を伺う魔物が存在した――






――通路の奥に進むと、そこには多数の檻が並べられた広間が存在し、檻の中に確認すると魔物の糞や毛皮らしき物が散乱していた。恐らくはこの場所で魔物が飼育されていたと思われるが、かなりの悪臭でドリス達は鼻を抑える。


檻にはそれぞれ魔物の種類が刻まれた表札が掲げられており、それを確認したドリスは眉をしかめ、先ほど発見した大量の魔物の死体はこの檻から出てきた魔物達の可能性が非常に高い。


状況的に考えてこの施設では魔物を管理していたが、何らかの理由で閉じ込めていた魔物達が檻から抜け出し、それを抑えるために白面が戦ったがお互いに相打ちになった。そう考えるしかないのだが、どうにも腑に落ちない。



(いったい何が起きたんですの?)



魔物達の檻を調べる中、ドリスが気になったのは全ての檻が破壊された形跡は残っておらず、扉だけが開いている状態だった。つまり、これは何者かが魔物を閉じ込めた檻を開き、魔物達を解放して白面と戦わせた事を意味する。

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