第833話 白狼騎士団の戸惑い

「――おい、どうなってんだ!?もぬけの殻じゃねえか!!」

「見張りも誰もいないなんて……こんな事、あり得ません」

「まさか……外れ?」



商業区にて白面の集団を倒した後、白狼騎士団は下水道の秘密の抜け道を通って地下に存在する施設に辿り着く。この施設では毒薬を詰める特別な容器の開発を行っていたらしく、施設内に居たのは白面に脅されて製造を強要されていた協力者達だけであった。


施設内に残っていた研究者全員が白面に誘拐された鍛冶師たちであり、毒液を満たすための容器は彼等が作り出していたという。しかし、彼ら以外には誰もおらず、それどころか見張りの一人すら残っていない。



「おい、あんたら!!本当に何も知らねえのか?」

「し、知りませんよ!!私達だって何が起きているのか知らないんですから!!」

「さっきまで確かに見張りがいたんですけど、急にいなくなって……」

「もう何が何だか……」



施設内に閉じ込められていた鍛冶師達も何が起きているのか理解しておらず、この施設内に存在した白面は急に姿を消したという。彼等は本当に何も知らず、シャドウもここへは来ていない事が判明した。



「くそっ……やっぱり、ここは外れみたいだな」

「これからどうしますか?」

「とりあえず、この施設は封鎖して他の施設に向かうしかねえだろ。おい、あんた等は外へ連れ出してやる」

「ほ、本当ですか!?」

「ああ、良かった……」

「家族と会えるんだ!!」



研究者たちはガオウの言葉を聞いて喜ぶが、ガオウ達からすればここにシャドウが居なかった事に残念に思う。しかし、この時に鍛冶師の一人が手を上げて白面達が気になる事を話していた事を伝える。



「あ、あの……実はあいつら、ここを離れる前に何か変な事を言ってたんですけど」

「変な事だと?いったい何だ?」

「よく聞き取れはしなかったんですけど、何でも他の施設の実験体が逃げ出したとかどうとか……」

「逃げ出した?実験体?何の話だ?」

「す、すいません……そこまでは分かりません」

「ちっ……仕方ない、一旦地上へ戻るか」

「あ、待って!!皆、これを見てよ!!」



白狼騎士団と冒険者達は施設に捕まっていた人間達を連れて地上へ引き返そうとした時、ここでリーナが声を上げる。彼女は鍛冶師達が作業をしていた机の上に気になる物を発見した。


彼女が見つけ出したのは大きな羊皮紙であり、それを広げて確認すると王都の下水道の地図が記されていた。どうやら白面が独自に作り上げた現在の下水道の詳細の地図で有り、王国が所持していた地図よりも詳細に記されていた。



「これ、多分だけど下水道の地図だよね。ほら、僕達がいる施設も記されてるよ!!」

「という事は……この地図を確認すれば他の施設の詳しい場所も分かるんですね!?」

「よくやったリーナ!!すぐに地上へ戻ってこの地図の事を他の奴等に知らせるぞ!!」

「うん……あ、あれ?」

「どうしたの?」



リーナは羊皮紙を運び出そうとした時、ここで彼女はある事に気付いた。それは地図上に表記されている施設の数であり、イリアの情報によると白面は王都の中央と各地区の地下に地下施設を形成しているはずだが、地図に表記されているのは地下施設の内、工業区に存在する地下施設は闘技場の地下に存在する事に気付いた。



「ほら、ここ……僕のお父さんが経営している闘技場の真下に地下施設があるんだよ」

「え?」

「言われてみれば確かに……丁度この施設の上に闘技場があるはず」

「という事は……もしかして闘技場の方にこの地下施設と繋がる抜け道があるのかな?」

「なるほど……まあ、あり得ない話じゃないな」



闘技場の地下に地下施設が存在するという事は、闘技場の何処かに地下施設と繋がる抜け道があってもおかしくはない。そもそもリザードマンもリザードゴブリンに変異したゴブリンキラーも吸血鬼も元々は闘技場に管理されている魔物である。


最初に騒動が起きた時に闘技場から魔物が解放された際、アッシュの配下の兵士達は魔物が出てこないように抵抗していた。しかし、闘技場の兵士が魔物と戦ったという事は、魔物を解放したのは闘技場内の兵士ではなく、白面の可能性も出てきた。



「じゃあ、闘技場にいた魔物が脱走したのは白面の仕業なのかな……?」

「その可能性はあるな……となると、闘技場の兵士達は気の毒だったな」

「うん……あれ?これって……」

「リーナさん、今は急いで地上へ戻りましょう!!さあ、皆さんも一緒についてきてください!!」

「は、はい!!」」

「分かりました!!」



リーナは地図を見た時に何かに気付いた様子を浮かべるが、ヒイロは急いで地上へ戻るために他の者達を先導する。リーナは結局は他の者に伝える暇はなく、地図を手にして他の者に続く。




この時に彼女が気になったのは地図に表記されている地下施設の名前であり、闘技場の地下に存在する施設の名前は「魔物配合施設」と記されていた事が気になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る