第831話 火竜の経験石の欠片
――マジクの奇襲によってリンとアッシュが戦闘不能に陥った頃、リザードマンの方は下水道を移動していた。やがてリザードマンは王都の中心部に到達し、そこには白面の施設が存在する。
ロランの読み通り、シャドウは王都中心部に存在する地下施設に待ち構え、リザードマンは施設へと帰還する。そこには暗闇の中で佇むシャドウが存在し、その足元には彼の父親の死骸が横たわっていた。
「シャアアアッ……!!」
「……戻ってきたか、とっとと寄越せ」
シャドウはリザードマンに気付くと、顔を向けずに命令を伝える。その命令に対してリザードマンは腹の中に手を伸ばし、やがて鋭い爪で自らの腹を突き刺す。
「アガァッ……!?」
「……ちゃんと持って来たか」
体内からリザードマンは水晶の破片を取り出し、それを見たシャドウは事前に用意しておいた台座の上に置かせた。腹から手が引き抜かれるとリザードマンの腹部の傷口は闇属性の魔力によって塞がり、元の状態へと戻った。
リザードマンの体内に回収させておいたのは、飛行船の噴射口の動力として利用されていた「火竜の経験石」だった。火竜の化石から偶然にも発見された経験石を改造し、それを飛行船に取り込む事で高速飛行を可能にする技術が作り出された。
発見当時の時から火竜の経験石は欠片程度しか残っておらず、魔力に関しても既に残って等いなかった。しかし、ある鍛冶師はこの掌にも収まり切れる程の大きさの経験石を再利用し、全長100メートルを超える飛行船を飛ばす動力へと造り替えた。
――この掌にも収まる程の小さい火竜の経験石をどのように扱うのかというと、原理は煌魔石と同じであり、大量の火属性の魔力を注ぐ事で火竜に膨大な火属性の魔力を蓄えさせる。
実を言えば魔力を込める魔石は質が高ければ高いほどに膨大な魔力を蓄積させ、それを一気に解放させる力を持つ。火竜の炎の吐息も経験石の魔力を利用しているからであり、常に火竜が火属性の魔石が生まれやすい火山に生息しているのは定期的に経験石に魔力を込めるためでもある。
圧倒的な火力を誇る火竜だが、その力の源は経験石であると言っても過言ではなく、火竜の絶大な威力を誇る火炎の吐息は経験石があってこそ生み出せる技ともいえる。それを利用して飛行船の製作者は噴射口に火竜の経験石を動力にする事で火竜の火炎の吐息の如く、凄まじい火炎の噴射を可能とした。
「こいつに限界まで魔力を注ぎ込めば……この都市一つを崩壊させるほどの爆弾も作り出す事はできるわけか」
「シャアアッ……」
「ふんっ……そんな物欲しそうな顔をするじゃねえよ」
シャドウが事前に用意しておいた台座には高密度の魔力が込められた魔石が数十個も嵌め込まれており、この台座に火竜の経験石を嵌め込めば魔力が送り込まれる。
台座に嵌め込まれた魔石が1つずつ徐々に色を失い始め、その代わりに火竜の経験石に色が復活し、徐々に色合いが濃くなっていく。その様子を眺めながらシャドウは座り込み、リザードマンに振り返った。
「お前は時間を稼いで来い、いいか?出来る限り戦闘を避けろ、逃げ回って翻弄しろ」
「シャアッ……!!」
シャドウの命令に対してリザードマンは即座に駆け出し、施設の外へ向けて移動する。その様子を見てシャドウは笑みを浮かべ、人間を操るときとは違い、魔獣や魔人族のような生物は死霊術で操りやすいので楽だった。
「あと少しだ……あと少しでお前の計画通りにいくぞ、シン」
天井を見上げながらシャドウは呟き、この時に彼は口元に手を伸ばすと、激しく咳き込む。咳は中々に止まらず、口元を塞いでいる手から血が流れる。
「ぐふっ……がはぁっ!?」
遂には立っていられずにシャドウは四つん這いになり、血反吐を地面に吐き散らす。しばらくすると落ち着いてきたが、シャドウは心臓を抑えて短時間の間に死霊人形を作り過ぎた事で自分の肉体が限界を迎えようとしている事に気付く。
死霊人形を作り出すのは本来は危険な行為であり、普通なら1日に1体の死霊人形を作るのが限度である。それを1日の間に何体も死霊人形を作り出し、さらにそれらに魔力を分け与えた事でシャドウの寿命は一気に縮んでしまう。
シンと双子であるシャドウも老人といっても過言ではない年齢であり、恐らくは夜を迎えた時が彼は最期の時を迎える。死霊使いが最も魔力が高まる時間帯はあくまでも夜の間だけであり、次に太陽が昇った時にシャドウの命は尽きる。しかし、その前に弟が残した最後の計画を果たさねばならなかった。
「くそ親父が……これもあんたの望み通りか……?」
父親の死体に視線を向け、シャドウは少しでも身体の負担を少なくするために座り込み、もう返事が返ってくる事はないと知りながらも呟いた――
※確認したら祝日だったのでやはり今日まで多めに投稿します。
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