幕間 《シャドウとマジク》

――時は遡り、シャドウの死霊術によってマジクは蘇った。彼はシャドウの存在に気付くと、自分の身体を見て何が起きたのかを察し、沈痛な表情を浮かべた。



「儂を……蘇らせたのはお前か、シャドウよ?」

「ああ、久しぶりだな……」

「……儂が死んでからどれくらいの時が経過した?」

「せいぜい数か月だ」



マジクは目覚めて早々に事態を察し、棺桶の中から出てくるとシャドウと向き合う。シャドウはマジクとは実を言えばシンと同じく、数十年来の付き合いでもあった。


シン、マジク、シャドウの3人は幼馴染であり、それぞれが親の理不尽な教育を受けて育ってきた。マジクの父親はシンとシャドウの父親の忠実な僕であり、その父親を殺したのも二人の父親だった。だからこそマジクは彼等の父親を憎んだが、結局は復讐を果たす前に彼は死んでしまう。



「……夢を見ておった気がする。お主が先代の宰相を殺した時の夢をな」

「夢、か……そいつは違うな、お前が見た夢は死ぬ寸前に見た走馬灯だろうよ」

「なるほど……」



シャドウはかつて父親を病気に見せかけて殺した。その理由は彼が父親を憎んでいたという理由もあるが、実は他にも一つだけ理由があった。



「お主は自分の父親を殺したのは……儂のためか?」

「気持ち悪い事を言うんじゃねえ……」

「儂のためなんだろう……お主は儂に自分の父親を殺させたくはなかった、だからあんな真似を」

「ふざけるな……あいつは俺の手で殺す、他の人間に殺されるのは我慢ならなかっただけだ」

「そうか……」



マジクはシャドウの言葉を聞いて半分は本気だが、もう半分は嘘だと気付く。確かにシャドウは父親の事を殺したいほど憎んではいたが、それならばどうしてマジクが赴いた時に彼を殺したのか、それは彼のためである。


先代の宰相の死に際に立ち会ったのはマジクであり、シャドウは彼が訪れるのを見計らって宰相を殺した。その理由はマジクが殺したいほど恨んでいた相手をせめて苦しんで死ぬ姿だけは見せてやりたいという彼なりの歪な優しさだった。


方法はともかく、シャドウとしてはマジクがどれだけ父親の事を憎んでいるのかは知っていた。シャドウからすればマジクは幼馴染であり、同時に自分達と似たような境遇の人間である。そのため、彼の事は放ってはおけず、結局は彼なりの方法でマジクの気を晴らそうとした。



「……シンはもういない、だがあいつの残した計画はまだ終わっていない。、な」

「まさかお主の口からそんな言葉を聞くとは……これは蘇った甲斐があるのう」

「茶化すな、どうせお前の命は今夜限りだ……その前にあいつの計画を果たすぞ」

「……聞かせてくれ」



マジクはシャドウに対して敵意はなく、自分を蘇らせて計画に加担させようとする事にも怒りは抱かない。今だけは幼馴染として彼の願いを聞き遂げる事にした。それがマジクのシャドウに対する恩返しでもあり、同時に先に逝ったシンのためだと彼は思う。



「マジク……この国のためにもう一度死んでくれるか?」

「……よかろう、生前の儂はこの国のために尽くした。ならば……今回は友のために尽くそう」



シャドウの計画を聞き終えたマジクは迷いなく彼の計画に賛同し、共に戦う事を誓う――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る