第830話 敵として
「マジク魔導士……何故だ、どうして貴方がこんなっ……!!」
「アッシュよ……敵を前にしてそのような表情を浮かべるな、言ったであろう……例えどんなに親しい間柄の相手だとしても、敵として遭遇した時は躊躇するなとな!!」
「っ……!?」
まだアッシュが10代の頃、彼はマジクに教えを受けていた事がある。教えと言っても彼から教わったの魔法でも武術でもなく教訓だった。
若く未熟だったアッシュは自分の腕前に過信し、立場も考えずに色々と問題ばかりを起こしてきた。そのせいで危うく公爵家から追放されそうになった事もあったが、その時にマジクが色々と手助けしてくれた。
アッシュにとってはマジクは正に恩人であり、そして人生の師でもある。それはリンも同様であり、彼女もマジクの事は尊敬に値すべき人だと信じていた。それなのに死霊人形として蘇ったマジクは二人に対して容赦なく攻撃を行う。
「アッシュよ、この儂を倒してみせろ。そうせねば……この国は救えぬぞ」
「マジク魔導士……」
「もう儂は魔導士ではない、この国の害敵じゃ!!」
マジクの気迫を受けたアッシュは圧倒され、やがて覚悟を決める様に彼が横に落ちていた薙刀に手を伸ばし、身体が痺れてまともに動くのも難しい状態にも関わらずに薙刀を振り払う。
「はああっ!!」
「ふっ……やっとやる気がおきたか」
アッシュの振り払った薙刀をマジクは後ろに跳んで回避すると、彼は老人とは思えない身軽さで距離を取る。死霊人形と化した現在のマジクは肉体の負担など関係なく、若い頃の様に自由に動く事ができる。
更に彼の魔法の最大の弱点は魔力消耗が激しい事だたが、現在の彼は死霊石を通して大量の闇属性の魔力を纏い、それを利用する事で魔力の消耗を抑える。彼は今度は杖に黒色の電流を纏わせ、リンに向けて魔法を放つ。
「ほれ、お返しじゃ……サンダーアロー!!」
「ぐぅっ!?」
杖先から先ほどよりも規模が大きい電撃が放出され、しかも闇属性の魔力を取り込んだ事で「黒雷」と化す。その攻撃に対してリンは避ける暇もなく、彼女は暴風で受けた。
「このぉっ!!」
「ほうっ……前よりも魔法剣を使いこなしておるな、相当に修行を積んだと見える」
暴風に纏わせた風の魔力を利用してリンは電撃を正面から受けるのではなく、上空へと軌道を反らす。雷属性と風属性は実は風属性の方が相性的に有利であり、仮にドリスならば今の攻撃は防ぐ事は出来なかった。
風属性の場合は渦を巻くように魔力が流動しており、雷属性の魔力は直線的な攻撃しか出来ず、渦巻く魔力に対して攻撃が受け流されてしまいやすい。しかし、マジクは3人の魔導士の中でも最強と謳われ、その実力はマホをも上回ると言われたほどの魔術師である。
「ならばこれはどう受ける?」
「なっ……まさか!?」
「マジク魔導士、止めろ!!」
マジクが右手の杖を上空に掲げた瞬間、黒雲が誕生して徐々に周囲に広がり始め、それを目撃したリンとアッシュは彼が「広域魔法」を発動させようとしている事に気付いて顔色を青ざめた。市街地で広域魔法を発動させればどれほどの被害が生まれるのか想像するだけで恐ろしい。
「さあ、どうする……このままだと周辺の住民ごと巻き込んで死ぬしかないぞ」
「マジク!!止めろっ!!」
「うおおおっ!!」
二人は何としても広域魔法の発動を止めるため、身体が痺れた状態でありながらマジクの元に駆け出す。しかし、そんな二人に対してマジクは冷めた表情を浮かべ、右手の杖を下ろす。
杖が降りた途端に上空に広がっていた黒雲は薄れ、やがて完全に消失してしまう。その光景を見たリンとアッシュは驚愕し、どうして彼が魔法を中断させたのかと思ったが、既にマジクは二人に対して両手の杖を構えていた。
「愚か者が、敵から目を離すとは何事だ!!」
「「っ!?」」
マジクの言葉を聞いて二人は自分達の過ちに気付き、彼が広域魔法を解除した際に二人はマジクから視線を外して隙を見せてしまう。その隙をマジクが逃すはずもなく、彼は両手に握りしめた杖を構え、砲撃魔法を発動させた。
「ライトニングスピア!!」
「ぐああっ!?」
「がはぁっ!?」
二人の身体に槍の形をした電撃が放たれ、二人の身体を貫通した。アッシュとリンは全身に高圧電流が流れ込み、二人は耐え切れずに倒れ込む。その様子を見たマジクは黙って目を閉じると、その場を後にした。
「未熟者共が……お主等は器ではなかったか」
最後に一言だけ言い残すと動けなくなった二人を置いてマジクは暗闇の中に姿を消す――
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