第829話 世界最強の魔導士
(魔導士だと?まさか、リンを倒したのは魔導士か?いや、そんな馬鹿な……)
アッシュはリンが敗れた相手は魔導士かと考えたが、それは絶対にあり得ない事だった。そもそもイリアもマホも現在は王城で待機しており、こんな場所にいるはずがない。
第一にイリアは戦闘に特化しているわけではなく、彼女は支援に特化した魔術師なのでリンに勝てるはずがない。マホならば実力的に考えてもリンを敗れるだろうが、彼女はアッシュよりも長く王国に仕えており、最も国王からの信頼も厚く、決して国を背く人物ではない。
それならば何者がリンをこんな姿に追い詰めたのかと思ったが、ここでアッシュはリンを抱きかかえていると、異様な雰囲気を感じとる。後方から何者かが歩く足音が聞こえ、咄嗟に彼はリンを地面に下ろして薙刀を構える。
「何者だ!!」
「…………」
アッシュは背後を振り返ると、そこには全身を黒色のマントで覆い隠した人物が立っており、顔の方は隠しているので見えない。しかし、相当に年老いているらしく、マントから出てくる腕は皺だらけで杖を持っていた。
マントで全身を覆い隠す謎の老人の姿を見てアッシュは背筋が凍り付き、彼は直感で目の前の老人が恐ろしい力を持つ敵だと判断した。彼は躊躇なく老人に向けて駆け出し、薙刀を振りかざす。
(杖を……!!)
老人の格好を見てアッシュは相手が「魔術師」だと判断し、その杖を破壊すれば相手は魔法が使えないと思った。基本的には魔術師が魔法を扱うには魔石や杖などを媒介しなければならず、先に杖を破壊すれば魔法を封じる事ができると思ったアッシュは目にも止まらぬ足で刃を繰り出す。
「はああっ!!」
「……遅い」
「なっ……!?」
アッシュが老人の杖に向けて薙刀を放とうとした瞬間、老人は反対の腕に隠し持っていた小さな杖を取り出し、それをアッシュに構えた。
この時にアッシュは老人が握っている二つの杖の先端に黄色に光り輝く魔石が取り付けられている事に気付き、その正体に勘付く。彼は反射的に薙刀の軌道を変え、地面に刃を突き刺すと、走り幅跳びの要領で身体を上空へ跳ぶ。
「
「なっ!?」
左手の小杖から電流が放たれ、危うくアッシュは黒焦げになる所だったが、寸前で薙刀を利用して上空に跳んでいた事で直撃は免れた。しかし、武器越しに電流が伝わり、彼は飛び上がった状態で軽い電流を受けた。
(この魔法は……!?)
身体中に電流が流れたアッシュは苦痛の表情を浮かべ、老人の前に倒れ込む。この時に彼は雷属性の魔法を使った老人に対し、信じられない表情を浮かべる。
王国内に存在する魔術師の中でも雷属性を扱う魔術師は数人しかおらず、そして倒れた際にアッシュは確かにマントの内側の顔を確認した。その顔は間違いなく、グマグ火山にて死亡したはずの「マジク」だった。
「マジク、魔導士……!?」
「アッシュ……」
老人の正体がマジクだと気付いてアッシュは動揺を隠せず、まさか生きていたのかと思ったが、彼の死体はアッシュも確認している。しかし、だからこそこの場にアッシュが存在する事が信じられない。
最初はアッシュに化けた偽物かと思ったが、雷属性の魔法の使い手など滅多に居らず、しかもどう見てもマジクの顔は本物だった。いったい何が起きているのかアッシュは理解できないが、そんな彼にマジクは今度は右手の杖を構えた。
「すまぬ」
「マジク魔導士……!?」
マジクは杖の先端に取り付けられた雷属性の魔石に電流を迸らせ、資金距離からアッシュに魔法を放とうとした。だが、この時に強烈な風圧が二人の元に迫ると、反射的にマジクは杖を構えて魔法を放つ。
「サンダーランス!!」
杖から放たれた電流によって風圧は掻き消され、周囲に風圧と電流が拡散する。マジクに攻撃を仕掛けたのは気絶していたと思われたリンであり、彼女は暴風を構えていた。
「はあっ……はあっ……」
「リン……!?」
「ほう、まだ動けるか……流石は銀狼騎士団の副団長じゃな」
「その声、まさか本当に……」
アッシュとリンは老人の声を聞いて確信を抱き、やがて老人は顔を覆い隠していたマントを下ろすと、その顔は紛れもなくマジクの顔であった――
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