第818話 魔道具職人の本領発揮
「アルト王子、それは……?」
「ん?ああ、僕が作った光石を利用した灯りだよ」
「ほう、それは便利ですな」
アルトが作り出したのは「懐中電灯」とよく似た魔道具であり、ランタンよりも光の規模を狭める事で光が届く範囲を広くしていた。この魔道具をアルトが作り出した理由は彼を負う怪物は極端に光を嫌っていた。
ハマーンを倒せる程の相手にアルトが逃げ切れたのは彼が光石と呼ばれる魔石が入ったランタンを所持していたからであり、どうやら怪物は光を極端に恐れるらしく、ランタンを所持していた時はアルトに迂闊に近寄る事はなかった。だが、アルトは逃げる途中でランタンを落としてしまい、結局は倉庫に隠れる羽目になった。
「奴はこの光石が放つ光をいやがっていたからね、それならこの範囲は狭めるが遠方まで照らす事ができるように改造した魔道具が有利になると思ったんだ」
「なんとっ……」
アッシュはアルトの話を聞いて驚き、彼はこの危機的状況の中でも絶望せず、むしろ敵に対抗するための魔道具を開発していた事に驚きを隠せない。そんなアルトの勇気を讃え、アッシュはもう大丈夫だと伝える。
「ご安心くだされ、アルト王子。ここから先は私が貴方を守りましょう、さあリンと合流して早く外に……」
「ああ、頼りにしているよ……うわっ!?」
「なんだ!?」
二人が会話の際中、船が大きく揺れ動き、その振動で二人は体勢を崩す。いったい何が起きたのかとアッシュは手にしていた薙刀を握りしめると、この時に何処からか鳴き声が響いた。
――シャアアアアッ!!
聞こえてきた声はリンと対峙しているはずのリザードマンの声で間違いなく、二人は顔を合わせると同じ回想にリザードマンが存在する事を察する。
「この声は……アルト王子を襲った奴ですか!?」
「ああ、そうだ!!敵の正体は恐らくリザードマンだ!!だけど、普通の状態じゃない……もしかしたら死霊人形の可能性が高い!!」
「死霊人形……という事はシャドウが!?」
アルトの話を聞いたアッシュは死霊人形と聞いてシャドウの仕業だと見抜き、死霊使いなど滅多に存在しないため、彼以外にこんなことをするような人物に心当たりなどない。
すぐに鳴き声のした方向を確認したアッシュはリンが先ほどの揺れはリンの仕業だと考え、彼女が船内で暴風を使用したと判断する。それほどまでに危機的状況らしく、アッシュはアルトを連れて急いでここを離れる事にした。
「アルト王子、脱出しますぞ!!」
「あ、ああ……でも、甲板まで移動する時間が……あ、そうだ。窓から外へ逃げれば……」
「そんな時間はありまえん、失礼!!」
今は一刻も早くアルトを逃すためにアッシュは薙刀を構え、その行動にアルトは疑問を抱くが、直後にアッシュは飛行船の壁に目掛けて円を描くように薙刀で切り裂く。
「ふんっ!!」
「うわっ!?」
アッシュの斬撃によって壁は見事に切り裂かれ、円形の出入口が作り出される。それを見たアルトは色々と突っ込みたい所はあったが、とりあえずは外に繋がる出入口が出来た。
「さあ、アルト王子!!先に外へお逃げ下さい!!」
「あ、ああ……相変わらずとんでもないね」
力ずくで飛行船の壁を破壊して外への抜け道を作り出したアッシュにアルトは冷や汗を流すが、今は彼の言う通りにアルトは外へ抜け出すと、残されたアッシュはアルトを無事に外へ送り込んだ事を確認すると、船内を睨みつける。
この船内では恐らくリンとリザードマンが未だに戦闘を繰り広げているはずであり、アッシュはリザードマンがシャドウの蘇らせた存在だと判断すると放置は出来なかった。彼はアルトに振り返り、自分はこのままリザードマンの討伐に向かう事を伝えた。
「アルト王子、申し訳ないがリンが心配なので私は行きます!!王子はすぐに外の馬車で待機しているはずの騎士達とハマーンと合流を!!」
「分かった、すぐに応援を連れてくるよ!!」
「助かります!!では、失礼!!」
アッシュはアルトを無事に外へ出すと彼は船内に戻り、その様子を確認したアルトは造船所の外へ向かおうとした。しかし、この時に彼は足音が聞こえ、驚いた様に振り返る。
「アルト王子か?まだ何か……うわぁっ!?」
「シャギャアアアッ!!」
足音の方向にアルトは光石を利用して作り出した懐中電灯を向けると、そこには信じられない事にリザードマンが存在した。船内にいるはずのリザードマンがどうしてここに居るのかとアルトは焦ったが、すぐに彼は敵の正体がリザードマンではない事を見抜く。
(違う、こいつは……リザードマンじゃない!?)
姿を現したのはリザードマンではなく、全身にリザードマンの様な鱗を纏い、尻尾を生やしたゴブリンだと気付く。彼が相対したのはリザードゴブリンであり、アルトが作り出した電灯の光を浴びて怯む。
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