第819話 魔道具職人の戦い方

「リ、リザードマン……いや、ゴブリンなのか!?」

「シャギャアッ……!!」



リザードゴブリンを初めて見たアルトは動揺を隠しきれず、彼はリザードゴブリンを見るのは初めてだった。だが、すぐに冷静さを取り戻した彼はリザードゴブリンが自分の作り出した魔道具を嫌がっている事に気付く。



(そうか、やはり死霊人形は光に弱いのか……いや、光というよりは魔石から発せられる魔力を嫌がっている?)



アルトの手にする懐中電灯が放つ光は電気の類で作り出した物ではなく、光石と呼ばれる魔石から発せられる光である。そして光石は聖属性の魔石に分類し、その光の正体は聖属性の魔力その物である。


ナイは「光球ライト」と呼ばれる魔法を扱えるが、その光球と同じようにアルトの手にする懐中電灯は聖属性の光を放つ魔道具だった。死霊人形からすれば闇属性の魔力を浄化する聖属性の光は苦手らしく、しかもアルトの懐中電灯はランタンとは違い、一点に光を放つので効果は高い。



「シャギャアアッ!!」

「あっ……に、逃げた?」



懐中電灯の光を浴びせただけでリザードゴブリンは離れてしまい、その様子を見たアルトは安堵しかけるが、すぐにリザードゴブリンは一定の距離を離れると立ち止まる。



(逃げたわけじゃない、僕の様子を伺っているのか……だけど、この魔道具がある限りはあいつも迂闊に近づけないな)



アルトは自分の作り出した懐中電灯を見て死霊人形に対してここまで効果的な道具になるとは思いもしなかったが、魔道具職人を目指す彼としては自分の作り出した魔道具がここまで役立った事に嬉しく思う。


しかし、今は喜んでいる場合ではなく、どうやってこの窮地を乗り越えるか出会った。リザードゴブリンが近付く前に逃げるとしても、外に待機している馬車に戻れば負傷したハマーンとそれを治療する騎士がいるはずだった。



(このまま僕が逃げれば馬車の人間に被害が及ぶ。こいつをどうにか撒かないと……いや、いっその事……ここで倒すべきじゃないのか?)



リザードゴブリンに対してアルトは恐怖を浮かべながらも、彼はシャドウが蘇らせたと思われる存在を倒す事が出来れば戦局は大いに王国側の優位に立つのではないかと考えた。


勿論、アルトも無策でリザードゴブリンに勝てるとは思っておらず、彼は日頃から自分で研究を行い、自作した「戦闘用魔道具」を持ち歩いている。普段は他の人間に助けられていたのでアルトは戦う機会はなかったが、ここで彼は勇気を奮って戦う事を決めた。



(ここでこいつを倒す!!)



ハマーンを怪我させたのはリザードマンだが、そのリザードマンと同じく死霊人形であるリザードゴブリンを操っているのはシャドウである。つまり、死霊人形を操るシャドウこそがハマーンを傷つけた相手だと判断すれば、アルトもシャドウの操り人形であるリザードゴブリンを放置はできない。



(やるぞ、やるしかない!!)



戦う事を決めたアルトは若干興奮気味に自分の収納鞄から「腕手甲」を取り出す。これはナイが装備している「腕鉄鋼」を参考に作り上げた魔道具であり、アルトは右腕に装着すると、今度はボーガン型の魔道具を取り出して腕手甲に嵌め込む。



「よし、やるぞ……覚悟しろ、化物!!」

「シャアッ……!?」



妙な魔道具を取り出したアルトに対してリザードゴブリンを訝し気な表情を浮かべるが、直後にアルトは右腕に取り付けた腕鉄鋼を構え、ボーガンに「弾」の装填を行う。


アルトの作り出したボーガンが発射するのは矢の類ではなく、彼が魔石を加工して作り上げた「弾丸」だった。弾丸と言っても大きさは掌に収まる程は存在し、それを利用してアルトはリザードゴブリンに向けて発射を行う。



(観察眼発動!!軌道を予測、発射!!)



ボーガンを構えたアルトはリザードゴブリンに向けて弾丸を放つため、弦を引き絞る。この時にリザードゴブリンは嫌な予感を浮かべると、その直後にアルトは魔石の弾丸を発射した。



「喰らえっ!!魔石弾!!」

「シャアッ……!?」



アルトが魔石弾と命名したのは火属性の魔石を削り上げて作り出した代物であり、特殊な弦を利用して発射された魔石弾はリザードゴブリンの元へ向かい、それを確認したリザードゴブリンは咄嗟に跳躍を行う。


リザードゴブリンの判断は間違っておらず、造船所に積まれていた器材に魔石弾は衝突した瞬間、亀裂が走って内部の魔力が暴発し、爆発を引き起こす。規模は小さいが、威力は凄まじく、器材は木っ端みじんに砕け散る。



(くっ……外したか!!だが、狙い通りに撃ち込む事はできた!!)



リザードゴブリンには攻撃を避けられてしまったが、アルトは即座に次の魔石弾をボーガンに装填させ、リザードゴブリンを狙う。リザードゴブリンは魔石弾の威力を知ると、慌ててアルトと距離を取ろうとした。

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