第817話 魔道具職人として……
(思っていたよりも色々と置いてあるな……これなら何かに使えるかもしれない)
アルトは普段から常備している収納鞄を取り出し、そこから道具を取り出して倉庫内に保管されていた物を改造する。仮に魔物と遭遇した場合、戦うための手段として色々と工作を行う。
危機的状況ではあるが戦闘手段を何も持たない状態で生き残れるはずがなく、アルトは様々な道具を利用して自分だけの武器を作り出す――
――その頃、リンとアッシュは船内で別れて行動していた。一刻も早くアルトを見つけ出すために敢えて二人は二手に分かれて捜索を行い、部屋の中を一つずつ調べて探す。
侵入者がいるかもしれないので無暗に声を上げず、リンは各部屋を捜索する中、死臭を感じ取った。甲板を上がった時も死臭らしきに臭いは残っていたが、徐々に下の階移動する程に臭いが強まっていく。
(何だ、この臭いは……)
死臭を感じながらも遂にリンは一番下の階層の通路に移動すると、ここで彼女は気配感知の技能を発動させる。すると、奥側の方ではあるが僅かに反応があり、彼女は急いで移動を行う。
(今の所は他に気配は感じないが……!?)
通路を移動する際中、リンは光石と呼ばれる魔石が入ったランタンで通路を照らしながら移動を行っていたが、彼女が気配を感じた場所に辿り着く前に天井に異様な姿をした生物が待ち構えていた。
「シャアアッ!!」
「リザッ……!?」
天井に張り付いていたのはリザードマンであり、リンの光石のランタンの光を浴びた途端にリザードマンは口元を開く。それを見たリンは咄嗟に火炎の吐息を吐き出すつもりかと思ったが、リザードマンが口内から発射したのは炎ではなく、異様に長い舌だった。
舌を繰り出したリザードマンはリンが手にしていたランタンに攻撃を仕掛け、光石とランタンの残骸が床に落ちてしまう。光石は特別な容器で納めていないと長くは持たず、徐々に光が薄まっていく。
「くっ!!貴様っ……!?」
「シャアアッ!!」
リンは咄嗟に腰に差している暴風に手を伸ばすが、リザードマンは何故か彼女に襲い掛かる様子はなく、光を浴びるのを嫌がるように距離を取る。その姿と身体から発せられる臭いを感じ取り、リンはリザードマンの正体に気付く。
(まさか、死霊人形か!?こいつは死霊人形なのか!?)
船内や甲板に残っていた死臭がリザードマンから発せられている事にリンは気付き、動揺を隠せない。しかし、リザードマンを見た時からリンは以前に遭遇した個体であると確信を抱き、どうやら何者かの手によって蘇らされた事を悟る。
(シャドウか!!)
死体を蘇らせる事ができるのは死霊使いだけであり、そして現在王国が追っている存在はシャドウである。十中八九はシャドウの手によって蘇った死霊人形である事は間違いなく、恐らくはナイに倒されたリザードマンを回収したのだろう。
リザードマンとまさか3度目の対戦になるとは思わなかったリンだが、彼女からすれば因縁の相手である。初戦では撃退に成功し、二戦目では不覚を取ってしまった。しかし、今回はリンもリザードマンを確実に仕留めるため、暴風を構える。
「いいだろう、ここで決着をつけてやる!!バラバラに切り刻んで二度と蘇れないようにしてやる!!」
「シャアアアッ……!!」
リンはリザードマンと向かい合うと、彼女は暴風を発動させようとした。しかし、ここが船内である事を思い出し、こんな狭い通路では彼女は本気で戦う事はできない。
(ここでは不利か、ならばどうすれば……)
甲板に移動するか、あるいは飛行船の壁を破壊して外へ飛び出すという手段もある。だが、どちらの方法もリザードマンが大人しく見ているはずがない。
リンが考え込んでいる間にリザードマンの方は徐々に光石が放つ光量が弱まっていく事に気付き、天井から降りてリンと向かい合う。昼間に遭遇した時と比べてもリザードマンは全身が漆黒に染まり、普通の状態ではない。
(何なんだ、こいつは……いや、今は考えている暇もないか!!)
リザードマンに対してリンは暴風を構え、一か八か彼女は攻撃に出た――
――同時刻、アッシュの方は別の通路にて移動を行うと、彼はある物を発見した。それはアルトが普段から身に付けている王家のペンダントであり、それを見た彼はアルトがこの近くにいるのかと考える。
「アルト王子!!いるのならば返事をしてくれ!!」
ペンダントを拾い上げたアッシュは大切にしまうと、アルトの名前を呼びかける。だが、反応はない事に彼は心配し、もう一度呼びかけた。
「アルト王子!!」
「……その声は、アッシュ公爵か!?」
「おおっ、王子!!」
通路の奥の方からアルトの声が響くと彼は安堵するが、通路の奥から現れたアルトは奇妙な道具を手にしていた。彼が手にしているのは光石を筒状の道具の中に入れており、ランタンのように周囲を照らすのではなく、直線状を照らす不思議な道具を持っていた。
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