第815話 真の強者
「ナイ、お前は強者だ……この俺が認める程のな」
「強者……」
「……生き続けろ、強者としてな」
リョフは最後にそれだけを告げると、黙って目を閉じた。やがて完全に闇属性の魔力が体内から失われたらしく、リョフの身体は朽ち始めた。
死霊人形と化した最強の武人は二度目の死を迎え、もう二度とと蘇る事はない。ナイはリョフに対して両手を合わせると、他の者達もナイの元へ赴く。
「リョフ……最強の武人に恥じぬ力を持った男だったな」
「ロランさん」
「君のお陰で命拾いしたぞ、感謝する……」
ロランはナイの肩に手を伸ばして笑みを浮かべた。そんな彼に対してナイは頷き、同時に彼は信用に値する人間だと悟る。
リョフとの戦闘でナイが動けなかった時、ロランは率先して自分が盾になろうとした。それは他の騎士達も同じであり、あの状況で彼等はナイを守るためだけに命を差しだそうとした。
そんな彼等をナイは疑う様な真似はできず、ロランも猛虎騎士団の騎士達も信用に値する人間だと確信を抱いた。ロランは確かに宰相の息子だが、それでもこの国を想う気持ちは本物であり、疑う余地などない。
「さあ、行こう……リョフがここに居るという事は、シャドウにとってもこの屋敷は見張りを用意する必要がある場所だという事だ。つまり、この何処かに奴が拠点にしている地下の施設に繋がる秘密の通路があるはずだ」
「そうですね……行きましょう」
リョフの死体をこのまま残しておく事のは心残りではあるが、今はシャドウを見つけ出して彼を止めるのが先決であり、ナイ達は屋敷の捜索を開始した――
――その一方で工場区の方ではリンは銀狼騎士団を率いて地下施設に向かう前に飛行船が保管されている造船所に立ち寄る。先ほど部下からこの場所にハマーンとアルトが訪れている情報を聞き、地下施設に向かう前に様子を見に来た。
「ここに王子とはハマーン技師がいるのか?」
「はい、間違いありません。御二人が利用したと思われる馬車がありました!!」
「全く、こんな時にあの二人は何をしている……」
リンはアッシュと行動を共にしており、王子が抜け出した事を知ったアッシュは彼を連れ戻すためにここへ戻ってきた。この状況下でどうして二人が飛行船などに向かったのかは不明だが、一刻も早く二人と合流する必要がある。
仮にもアルトは王子であり、敵に人質にされた可能性もあるため、安全な場所に避難してもらう必要があった。そのためにリン達は彼等を連れ戻すために飛行船の造船所まで訪れたのだが、造船所に入って早々におかしな雰囲気を感じ取る。
「ん?これは……」
「リン、警戒を怠るな……何かが居るぞ」
「えっ……どうされたのですか、御二人とも?」
「お前達も警戒しろ、決して私達から離れるな」
暗い造船所の中をリンたちはランタンを頼りに周囲を照らしながら進み、アッシュとリンは入って早々に妙な雰囲気だと感じ取り、周囲を警戒しながら移動を行う。
「アルト王子!!ハマーン技師よ!!いるのなら返事をくれ!!」
「……返事はないですね」
アッシュが大声を張り上げて声をかけたが、二人の返答はなかったが確かに馬車はこの造船所の前に停まっていた。二人がこの中にいるのは確実なのだが、どうして姿を現さないのかとリンは疑問を抱く。
勝手に抜け出した事に説教されるのが嫌で黙っているという可能性もあるが、いくらアルトでもこんな緊急時にそんなふざけた真似はするはずがない。飛行船の中に乗り込んでいる可能性もあり、リンたちは飛行船の甲板へと移動を行う。
「気を付けろ、何が起きるか分からんからな」
「はい……お前達も何か気付いたらすぐに知らせろ」
「はっ!!」
アッシュとリンは数名の騎士と共に甲板へ移動すると、この際に二人は飛行船の後部に取り付けられている噴射口の方から物音が聞こえ、すぐにランタンで照らす。すると、そこには血塗れの状態で倒れているハマーンの姿があった。
「ぐううっ……!!」
「ハマーン!?」
「大丈夫か!?おい、誰か回復薬を!!」
「は、はい!!」
倒れているハマーンの元にリンとアッシュは駆けつけると、この時に彼は右足がない事に存在し、膝から先の箇所が肉食動物か何かに食いちぎられたかのように失くなっていた。それを見たアッシュとリンは驚愕し、すぐに傷口の治療を行う。
「ハマーンよ、しっかりしろ!!俺が分かるか?」
「ア、アッシュか……」
「動くな!!傷口を塞ぐぞ!!」
「誰か布を持ってこい!!」
「は、はい!!」
噛み千切られた様な傷口に向けて回復薬を注ぐと、ハマーンの肉体に激痛が走り、彼は事前に口元に押し込まれた布を噛み付く。やがて傷口を塞ぐ事に成功すると、アッシュは彼に何が起きたのかを問う。
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