第814話 覚醒
「があああああっ!!」
「ぐぅっ……」
「な、何て魔力だ!?」
「あんな攻撃を受ければ無事では済まないぞ!?」
リョフは雷戟を上空へと振りかざすと、これまでにないほどの魔力を雷戟に注ぎ込み、やがて戟全体に黒色の電流が迸る。その恐ろしい光景を見た騎士達は騒ぎ出し、あのロランでさえも冷や汗を流す。
その一方でナイの方は電撃を迸らせるリョフを見て何を思ったのか、岩砕剣を手放して旋斧を両手で構えた。先ほどのようにナイが旋斧を利用して雷戟の魔力を奪うつもりなのかと考えたリョフは怒鳴り散らす。
「先ほどのようにいくとは思うな!!この魔力……喰らいつくせると思うなら喰らってみろ!!」
「いかん、逃げろっ!?」
雷戟を振りかざしたリョフを見てロランはナイに避難するように命じたが、リョフは躊躇なくナイへ目掛けて刃を振り下ろす。その直後、刀身から雷の如き電流が放射され、その攻撃に対してナイは旋斧ではなく、右腕に装着していた《反魔の盾》を構えた。
「うおおおおっ!!」
「何ぃっ!?」
反魔の盾はあらゆる魔法攻撃や衝撃を反射させる力を誇り、反魔の盾によって雷戟から放たれた黒雷は弾き返され、ナイの周囲に拡散する。その光景を見たリョフは目を見開くが、ナイは盾を構えながらゆっくりと近づく。
リョフは雷戟に魔力を送り込み続けるのを辞めず、雷を放出し続けるがナイは一歩ずつ着実に近づく。その光景を見てリョフは危機感を抱き、死霊石に宿した魔力を一気に引き出す。
(何なんだ、この小僧は……何者だ!?)
自分の全力の攻撃を受け続けてもナイは怯まず、恐れず、心が折れない。その姿にリョフは恐怖を抱き、同時に別の感情も抱き始めていた。
「うおおおっ!!」
「ぐぅっ……認めよう、お前は強者だ!!」
頑なにナイの事を武人とは認めなかったリョフだが、彼の強い精神力を見せつけられては否が応でも認めざるを得ず、彼の事を「強者」と認めた。しかし、認めたからといっても易々と敗北するつもりはなく、リョフは雷の放射を辞めて直接に切りかかる。
「その盾ごと、切り裂いてる!!」
「っ……!!」
盾を切り裂くという言葉にナイは怒りを覚え、そんな事はさせないとばかりにナイは旋斧を振りかざし、全身の筋力を利用して振りかざす。屋敷の敷地内に激しい金属音が鳴り響き、雷戟の刃と旋斧の刃が衝突した。
「がああああああっ!!」
「うおおおおおおっ!!」
獣のような咆哮を放ちながら二人は鍔迫り合いの状態に陥り、やがて雷戟と旋斧刃に亀裂が生じる。このままではどちらの剣も壊れるかもしれないが、それでも二人は押し合う。
この時にナイの身体に纏っていた白煙が旋斧へと伝わり、亀裂が徐々に塞がり始める。旋斧は生命力を吸収する事で刃を修復し、より強度を増す。ナイの放つ白炎を糧に旋斧は自己修復を行い、その一方で雷戟の方は刃の亀裂が全体に広がり、やがて完全に砕け散った。
「おぉおおおおおっ!!」
「がはぁっ!?」
遂に雷戟が砕け散り、そして旋斧の刃はリョフの身体に食い込む。この際にナイはリョフの身体に刃を押し込み、胸元の死霊石に目掛けて刃を振り払う。
「だぁああああっ!!」
「ぐはぁああああっ!?」
死霊石が旋斧によって破壊され、この際に大量の闇属性の魔力がリョフの身体から噴き出すと、やがて彼は地面に倒れ込む。その様子をナイは見届けると、息を荒げながらも旋斧の刃に視線を向けた。
旋斧にはナイの白炎を吸収した影響で聖属性の魔力を宿しており、リョフの放った闇属性の魔力は一切吸収していなかった。やがて魔力が消え去ると、ナイは背中に旋斧を戻してリョフを見下ろす。
「……ナイ、といったな」
「リョフ……」
「見事だ……この俺を倒すとは、な……」
死霊石を破壊されたリョフだが、まだ意識は残っていたらしく、身体から煙のように闇属性の魔力を放っていた。先の戦闘でリョフの肉体が受けていた損傷が全て露になり、その姿はあまりにも痛々しく見るに堪えない。
それでもナイはリョフの元に膝を着くと、彼が最後に言い残したい言葉はないのかを尋ねる。リョフもあくまでもシャドウに利用された人間であり、ナイとしては恨みを抱く理由はない。
「言い残す事は……」
「……一つだけ、ある。ここまで負けて悔しい事は……なかった」
「リョフ……」
リョフはジャンヌに敗れた時は一片の悔いもなかったが、二度目の敗北を味わった彼は悔し気な表情を浮かべた。これまで敗北とは無縁の人生を送り続けてきたため、最初に死んだときは何も思わなかったが、まさか自分が二度も敗北するとは思わずに悔しく思う。
しかし、その一方で時代を越えて強者と戦えた事は嬉しく思い、負けて悔しいが自分を越える存在と巡り合えた事には満足していた。結局はジャンヌもリョフとは相打ちの形で死んでしまい、完全に勝利を収めたわけではない。しかし、今回の勝負はナイの完全な勝利だった。
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