第803話 影魔法の弱点

――グシャとの戦闘にてナイは大剣ではなく、アルから受け継いだ刺剣を身に付けたのは理由があった。下手に大剣などの武器を使用した場合、恐らくは鎖に刃を巻き付けられて封じられる恐れがあり、それでもナイの力ならばグシャにも負けないと思われるが、問題なのは闇属性の魔力であった。


イゾウとの戦闘でナイは闇属性の魔力の恐ろしさを思い知っており、彼との戦闘ではナイは常時闇属性の魔力の影響を受けて激しく体力を消耗してしまう。これは闇属性の特徴の生命力を奪う性質のせいであり、死霊人形とかしたイゾウの放つ闇属性の魔力のせいでナイは知らず知らずのうちに生命力を奪われて衰弱していた。


先ほどグシャの鎖を掴み取ろうとした際もナイは生命力を奪われた事を考えると、もしも鎖に巻き付かれでもしたら命取りになりかねない。そうなると大剣などの大振りの武器の場合、隙が大きくなるので相手に攻撃を許しかねない。


そこでナイは両手に刺剣を装備させ、更に動きやすいように岩砕剣と旋斧を下ろす。より動きやすくなったナイは両手に刺剣を構えてグシャがどのように行動するのか伺うと、彼女は鎖を放つ。



「死ね!!」

「っ……!!」



これまでとは違い、確実にナイの命を奪うためにグシャは一直線にナイに向けて鎖を放ち、先端の刃を高速回転させる。それを確認したナイは両手の刺剣を構え、観察眼の技能と持ち前の動体視力を生かして鎖同士が繋がれる隙間に向けて刺剣を突き刺す。



「ここだっ!!」

「なぁっ!?」

「と、止めたっ!?」



これまでの戦闘からナイは先端部分に取り付けられている刃物は拘束回転しているが、肝心の鎖のほうは回転していない事を見抜く。当然と言えば当然の話であり、もしも鎖と刃物が完全に繋がっていた場合、刃物が回転すれば鎖も回転し、そうなれば鎖を操るグシャも無事では済まない。


刃物と同時に鎖が回転すれば変な風に巻き込んでしまい、そうなれば鎖を自由に動かす事など出来ない。そこでナイは鎖と刃物が繋がっている場所を注視すると、案の定というべきか鎖と刃物の間には黒い糸のような物で取りつけられていた。



(これだ!!)



鎖の隙間に刺剣を突き刺す事で攻撃を止めたナイは、その状態のまま床に向けて鎖を突き刺す。グシャは慌てて引き寄せようとしたが刺剣は普通の短剣よりも先端が細く、尖っているため切れ味よりも貫通力が優れている。そのため、床に突き刺さった刺剣のせいでグシャは鎖を封じられてしまう。



(この糸を斬れば……!!)



ナイは刃物と鎖を繋ぎとめる糸のような物の正体を見抜き、左腕に装着した腕手甲に聖属性の魔力を送り込む。「魔法剣」ならぬ「魔法拳」を発動させたナイは刃物に向けて拳を叩き込む。



「どうだ!!」

「があああっ!?」

「グシャさん!?」

「そ、そんな馬鹿なっ!?」



黒い糸を断ち切った瞬間にグシャは悲鳴を上げ、鎖全体に覆い込んでいた闇属性の魔力が消え去ると、彼女は尻餅をつく。その様子を見て他の者達は慌てふためき、その一方でナイの方は床に落ちた鎖と刃物を確認した。


闇属性の魔力で操られていた鎖はどうやら魔法金属製の鎖と刃物だったらしく、グシャの魔力が消えた事で動かなくなった。ナイが断ち切った糸の正体は闇属性の魔力で構成されたグシャの「影」であり、彼女はシャドウと同じく「影」を自由に操作する力を所有していた。


グシャが扱う武器は特別な武器でもなんでもなく、魔法金属製の鎖にしか過ぎない。魔剣というよりは魔道具の類であり、彼女は自分の「影魔法」を利用して鎖を巧みに操っていた。




――影魔法とは闇属性の適正を持つ人間の中でも極僅かな人物しか扱えず、文字通りの影を操作する事が出来る。使用者は自分の影を自由に変化させ、実体化させる事も可能でこの影は物理攻撃を受け付けない。




影を物体に纏わりつかせれば自由に動かす事も可能であり、使用者の筋力では決して持ち上がらないはずの物体でも自由に持ち上げる事が出来る。その特性を生かしてグシャは影魔法を鎖に纏わせ、自由に操作した。


しかし、影魔法の弱点は影を絶ち切れた場合、その影の所有者も影響を受けてしまう。現在のグシャは腹部の部分にまるで誰かに殴りつけられたかのような跡が残り、彼女は白目を剥いて泡を吹いて気絶していた。



(あの怪我……まさか、僕が殴ったから負ったのか!?い、生きてると良いけど……)



ナイとしては鎖を止めるつもりで放った攻撃だったが、まさか影を攻撃するとグシャにまで影響が及ぶとは思わず、悪い事をしてしまったと思う。その一方でグシャを失った他の暗殺者達は表情を青ざめ、逃げ出そうとした。



「ひいいっ!?グ、グシャさんがやられるなんて……逃げろ!!」

「お、俺はもう足を洗うぞ!!まっとうに生きるんだ!!」

「殺さないでくれぇええっ!?」

「あっ……」



グシャが敗れた事で他の暗殺者達は逃げ出し、その様子を見てナイは止めるべきかと思ったが、ここでグシャを放置すると本当に死にかけず、仕方なく彼女の救助を優先する事にした。

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