第802話 オロカの右腕「グシャ」
「そこの隅の方で座っている人、貴方がグシャですか?」
「えっ!?」
『っ……!?』
ナイの発言にコウモリは驚き、その一方でにやにやと笑っていた酒場内の暗殺者も表情を一変させた。一方で声を掛けられた人物は動きを止め、ゆっくりとナイの方に振り返る。
グシャと思われる人物は驚く事に男性ではなく、女性だった。外見から察するに人間ではなく、森人族であった。しかもエルマと同じく褐色肌である事から「ダークエルフ」だと思われ、随分と露出の激しい恰好をしていた。
「……何故、私がグシャだと気付いた?」
「貴方だけ他の奴と比べて一番やばそうな気配を纏っていたから、かな」
「気配……なるほど、噂通りにただの子供じゃなさそうね」
「グ、グシャさん……!!」
気配と雰囲気だけで自分の正体を見抜いたナイに対してグシャは笑みを浮かべ、そんな彼女を見て他の者達は震え上がり、距離を置く。一方でナイの方もグシャが只者ではないと感じ取り、確かに威圧感だけなればイゾウにも負けない。
「お前達は下がっていなさい、ここは私がやるわ」
「は、はい!!」
「おい、下がれ!!巻き込まれるぞ!!」
「ひいいっ!!」
男達は壁際へと避難すると、その様子を見てナイはここまで道案内させた盗賊の男を手放してグシャと向かい合う。グシャは見た限りでは武器になりそうな物は身に付けていないが、ここで彼女は背中に手を伸ばして隠し持っていた刃物を取り出す。
「はあっ!!」
「くっ!?」
グシャは背中から取り出したのは鎖であり、その鎖の先端には青色に光り輝く刃が取り付けられていた。自分に迫りくる鎖に対してナイは咄嗟に背中の大剣を抜く暇はないと悟り、反魔の盾を構えた。
「このっ……!?」
反魔の盾でナイは鎖の先端の刃を弾き返そうとしたが、この時にグシャが口元に笑みを浮かべている事に気付き、嫌な予感がしたナイは咄嗟に反魔の盾で受けるのを止めてその場を跳躍する。
結果的にはナイの行動は功を奏し、反魔の盾が構えていた場所で突如として鎖が折れ曲がり、先ほどまでナイの胸元があった場所に鎖が通り抜けて壁に突き刺さった。それを確認したナイは驚き、一方でグシャは笑みを浮かべる
「今のはよく避けたわね……だけど、次はどうかしら!?」
「くぅっ!?」
ナイは近くに設置されていた円卓の上に着地すると、グシャは腕を引き寄せて鎖を手繰り寄せると、再び彼に向けて鎖の先端に取り付けられた刃を放つ。
鎖は不規則な軌道で空中を移動し、ナイの目でも見切れない。咄嗟にナイは円卓を降りるとそれを盾代わりにして防ごうとした。
「このっ!!」
「無駄よ!!」
円卓を蹴り飛ばして鎖を防ごうとしたナイだったが、鎖の先端の刃は空中にて高速回転すると、木造製の円卓を呆気なく破壊した。そのまま鎖はナイの頬を掠め、壁へとめり込む。
「うわっ……!?」
「ちっ、よく避けたわね。でも、今度は逃がさないわ」
頬に血が垂れる感触に襲われてナイは冷や汗を流し、もしも少しでも軌道がずれていたらナイの頭は貫かれていた。グシャは壁に突き刺さった鎖を引き寄せようとすると、この時に咄嗟にナイは鎖に手を伸ばす。
「このっ……うわっ!?」
「無駄よ!!」
ナイは鎖を掴んで引き留めようとした時、鎖を握りしめた瞬間に弾かれてしまう。何時の間にか鎖の全体が黒く染まっており、それを見たナイは手元に触れた際に力が抜けた感覚に襲われる。
(今のはまさか……闇属性の魔力!?)
グシャはどうやら鎖に闇属性の魔力を付与させていたらしく、鎖に自分の魔力を送り込む事で自由に軌道を変化させる力があるらしい。シャドウは自分の影を自由自在に動かして操作するように彼女もまた闇属性の魔力で鎖を自由に操作する力があるらしい。
闇属性の魔力に覆われた鎖はナイでさえも掴む事が出来ず、弾かれてしまう。しかも下手に触れようとすると闇属性の影響で生命力が奪われ、体力を消耗する事が発覚した。
(この人、強い……けど、ここで引き分けにはいかないんだ!!)
ここでナイは刺剣を引き抜き、両手で構えた。その姿を見てグシャは疑問を抱き、噂によればナイは大剣使いだと聞いているが、妙な形をした短剣を両手に構えたナイに対して尋ねる。
「何よ、それは……あんた、そんなちゃちな武器で私に勝つつもり?」
「……この武器を馬鹿にするな」
大切な養父の形見を馬鹿にしたグシャに対してナイは怒りを抱き、睨みつける。その気迫にグシャは冷や汗を流し、彼女はこれまでに相対した事がない圧倒的な威圧感を感じとる。
(このガキ……放っておいたらまずいわ)
暗殺者の本能がナイの危険性を伝え、グシャは目の前に現れたナイを一刻も早く始末する必要があると判断した。ここでナイを殺さなかった場合、後々に後悔する事態に陥る。そう確信を抱いたグシャは鎖を引き寄せ、最後の攻撃を行う。
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