第798話 宰相と獣人国

――宰相が事件の黒幕だと判明した後、彼の協力者だった者達はあっさりと寝返り、これまでの悪事を全て明かす。宰相と最も近い立場に存在したイシやイリアが裏切った以上、他の人間からすればもう逃げ場はなかった。


イシとイリアが自分達の悪事を話す前に他の人間達も観念して投降する中、生き残った白面に関しても同様だった。白面は宰相に忠誠を誓っているわけではなく、彼等は毒薬を仕込まれているため、逆らえないだけに過ぎない。




そもそも白面という組織は宰相が獣人国と結託して作り出した組織であり、獣人国に人間の子供を誘拐して密輸する一方、獣人国の方からも子供を送り込んで貰い、一流の暗殺者に育て上げていた。


宰相は無差別に人間の子供を誘拐していたわけではなく、攫われた子供達は将来的に魔法を扱う素質がある者を厳選し、送り込んでいた事が発覚する。獣人族は魔法の使い手が少なく、攫った人間の子供を育て上げる事で魔法を扱う兵士を作り出そうとしていた。


逆に宰相は人間よりも身体能力が高い獣人族の子供を送り込んでもらい、彼等を暗殺者として育て上げて自分の手元に置く。白面に所属する殆どの暗殺者が幼少期の頃から攫われた子供達ばかりであり、彼等を一流の暗殺者に育て上げる。




王妃の暗殺を宰相が企んだのはこの白面が理由であり、聖女騎士団は白面を壊滅させた事によって宰相からすれば自分の勢力を削がれた事に等しい。そのため、白面が壊滅される前に彼はシャドウと協力してリョフという最強の刺客をジャンヌに送り込む。


結果から言えばジャンヌとリョフは相打ちという形で死亡し、邪魔者がいなくなった白面は更に規模を拡大化させる。しかし、同時に王国はジャンヌと聖女騎士団を失った。


白面の一件がなければ宰相としてもジャンヌは利用価値のある人間だったが、自分の邪魔者になるのならば王妃であろうと彼は躊躇なく殺した。そして時を経て宰相は自分が父親を裏切ったように、今度は他の人間に裏切られてしまい、破滅の道を歩む――






――時は現在へと戻り、自分の父親の死霊人形を利用して擬態していたという宰相「シン」そして裏社会を牛耳る彼の弟「シャドウ」後は闇ギルドを収める「オロカ」の捜索が行われた。


敵の勢力は大分削っており、何よりもシンの派閥の最大勢力だった猛虎騎士団が王族側に寝返ってしまった。このせいで形成は逆転し、もうこの状況下ではシンの勝ち目は薄いと判断した彼の協力者達も次々と寝返る。


そして捜索中の3人の内、オロカが発見された。彼はある焼け崩れた建物の中で焼死体で発見され、それを確認したのはロランだった。



「ロラン大将軍、間違いありません!!この男はオロカです!!」

「そうか……」

「愚か者め……」



焼死体と化したオロカの姿を見てロランは眉をしかめ、彼の隣にはアッシュの姿もあった。アッシュはオロカとは敵対関係を築いていたが、彼の死に様を見てシャドウの仕業だと判断する。



「オロカ、昔の貴様は悪党だったが人に利用される小物ではなかった。なのにこんな死に様とは……」

「いいや、こいつは根っからの小悪党だ。強い物の前にはひれ伏し、その上で自分自身の弱さをよく理解していた。だからこそ他の人間に媚びへつらう事しか出来なかったのだ」

「そうだな……」



ロランとアッシュはオロカの死体に視線を向けて憐れむ。結局のところオロカは他人に利用される続けるだけの人生を送り、他に彼に生きる道などなかった。


敵ではあったがロランとアッシュはオロカとは数十年の付き合いであり、一応は彼のために色々と思う所はあった。だが、彼等はすぐに気を取り直して捜索を再開した。



「行くぞ!!残す敵はシンとシャドウのみ!!」

「うむ……」



ロランの言葉にアッシュは頷き、彼は最後にオロカの焼死体に視線を向け、そしてロランと共に捜索を再開した――

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