第797話 夜の世界

――同時刻、王都の下水道では怯えた表情を浮かべたオロカがシャドウとリョフの前に現れ、彼は青ざめた表情で二人の前で頭を下げる。彼の周りには大量の金貨や銀貨、それに宝石などの類が散りばめられており、それを見たシャドウは無表情で答える。



「何の真似だ、オロカ?」

「た、頼む……これが儂の全財産じゃ!!どうか、これで儂を外まで連れ出してくれ!!」

『……何だ、こいつは?』



これまではシャドウに対して仕事相手として接してきたオロカであったが、彼は自分の財産をかき集めて彼の元に訪れ、それを全て差し出す。オロカはここにいれば自分は必ず王都の軍隊に捕まって殺されると思い込み、助けを求める。


もうオロカに頼れる存在はシャドウ以外にはおらず、他の闇ギルドの勢力も当てにはならない。彼が最後に頼りにする相手はシャドウ以外には存在せず、必死に頭を下げて彼に命乞いを行う。



「シャドウ、お主とも長い付き合いだ。どうか、どうか儂を救ってくれ!!」

「まさかあんたが俺に頭を下げるとはな……」

「お、お主ならば儂を安全にここから抜け出させる事はできるだろう?そ、そうだ。もう王都に拘る必要はない、共に外へ抜け出そうではないか?お前の力さえあれば我々は他の国でもやっていけるぞ!!こんなに拘る必要はない!!」

「……おい、今なんて言った?」



王国ではこれ以上の活動は不可能だと判断したオロカはシャドウに対して自分と共に他国へ逃げて新しい組織の結成を持ちかけるが、その言葉を聞いた際にシャドウは表情を一変させる。しかし、オロカは彼の態度が急に変わった理由が分からず、戸惑う。



「え?いや……こ、こんな国に拘る必要はないではないか?」

「違う、今ちっぽけな国だと言ったな?ちっぽけだと……そう言ったな?」

「あ、ああ……それが、どうかしたか?」



シャドウの言葉にオロカは戸惑い、どうして彼がそんなにも国の事に拘るのかと思うと、シャドウは黙って腕を伸ばす。その瞬間、彼の足元の影が実体化してオロカの元へ向かい、彼の首元を締め付ける。



「がはぁっ!?」

「ちっぽけ……ああ、そうだな。お前等みたいなクズ共からすればこの国はちっぽけに思えるだろうよ」

「がああっ……!?」

『…………』



首元を締め付けられたオロカは苦し気な表情を浮かべ、その態度にリョフは黙って彼等の様子を観察する。別にリョフとしてはオロカを助ける理由などなく、今はシャドウの様子が気になった。


シャドウはこの国に対しては特に愛着などなく、どちらかといえばこの国せいで彼の人生は大きく狂わされてしまった。それでも今のシャドウからすればオロカの発言は聞き流す事は出来なかった。



「そのくだらないちっぽけな国のために……命を捧げた馬鹿野郎もいるんだよ!!」

「げはぁっ!?」



オロカは床に叩き付けられ、頭から血を流す。それでも辛うじて生きているらしく、身体を痙攣させていた。その様子を見届けたリョフとはシャドウに顔を向けると、彼は二人に告げた。




「最終決戦だ……行くぞ、お前等」




有無を言わせぬ気迫を放ち、遂にシャドウは動き出す。既に時刻は夕方から夜を迎え、彼が最も力を発揮できる時間を迎えようとしていた――

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