第796話 宰相の勢力は……

――猛虎騎士団の加入とマホ魔導士が戻ってきた事により、王都の事態は一変した。宰相の最大勢力であったはずの猛虎騎士団が王族側に寝返り、更に肝心の宰相は死霊人形によるだと判明した。


イリアが宰相の有力な協力者達に事前に根回ししていた事もあり、宰相に味方していた人間達は次々と寝返り、結果から言えば宰相という主柱を失った勢力は完全に崩壊した。今までは宰相の協力していた者達もあっさりと降伏し、罪を軽減させる事を条件にこれまでの悪事を自白する。


今回の事態の決め手となったのはアルトが猛虎騎士団を説得し、彼等の忠義心を再確認させた事が大きい。最初はロランは父親である宰相を裏切る事に躊躇したが、彼は忠誠を誓うのは父親ではなく、この国を率いる王族だと告げた。



『私が忠誠を誓う相手は王族だけです。それが大将軍の……騎士としての務めです』



アルトの質問に対してロランは父親との決別を決心し、こうして全ての王国騎士団が王族の味方をしてくれた。これによって宰相の計画は破綻し、当初の予定では宰相は自らの息子に討たれて死ぬつもりだったが、ロランに討たれる前に彼は姿を消してしまう。


今回の計画を実行するために宰相も色々と動いていたが、最大の誤算はナイ達であり、仮にナイ達がクーノで白面の秘密を知って戻ってこなければこんな事態には陥らなかった。


宰相が盛った眠り薬によって意識を失った国王に関してはイシとイリアに任せ、二人ならば薬の効果を切れさせる薬も作れるらしく、一先ずは安心だといいう。その一方で危険人物はまだ残されており、シャドウやオロカ、それに復活したリョフという敵も未だに王都に潜伏しているはずだった。





昼間の騒動で負傷して倒れた者達も回復薬を摂取した事で体調を回復させ、更に闘技場で拘束されていた者達の武器や防具も、宰相の配下から隠し場所を聞き出して奪い返す事に成功する。


銀狼騎士団、黒狼騎士団、猛虎騎士団、聖女騎士団、そして忘れてはならないのが白狼騎士団であり、全ての騎士団が王城に集められた。この時に宰相と繋がりを持っていた王国騎士だけは除外されるが、彼等は大将軍のロランの指示の元、残された敵の捜索を行う事になった。



「この王都にはまだ敵が残っている!!それはかつて王妃様の命を奪った悪鬼、シャドウ!!そしてこの国の害虫である闇ギルドの長、オロカだ!!奴等を何としても捕まえ、この国の平和を取り戻す!!」

『うおおおおっ!!』



ロランも元々は宰相側の人間ではあったが、彼以外に全ての騎士団を纏められる存在はおらず、それに完全に彼は吹っ切れていた。相手が父親であろうとロランはこの国騎士として、大将軍として国を脅かす存在を許す事は出来ない。



「遂に騎士団が全員勢揃いしましたわね」

「ああ……これなら負ける気はしないな」

「油断するんじゃないよ、まだ厄介な奴は残っているからね……」

「リョフ、ですか……」



各騎士団の団長と副団長が集まり、この時にリノとバッシュの姿はない。バッシュは拘束されていた所を救出され、現在は部屋で休んでいた。リノのほうも今日は色々とあったため、安全な場所でシノビと他数名の騎士と共に休ませている。


これから各騎士団は王都の調査を行い、この機に闇ギルドの勢力を殲滅し、更には隠れているはずのシャドウとオロカを見つけ出す。城壁は既に隔離され、一人も逃さない様にしていた。



「さあ、行くぞお前達……これが俺の大将軍としての最後の仕事だ」

「何を言ってるんだい、ロラン大将軍……」

「妙な気を遣うな、俺も父の暴挙を止める事が出来なかった罪人だ。今回の仕事が終わり次第、俺は大将軍の位を返上して罪を償う」

「そんな!?大将軍が辞められたらこの国はどうなると思っているんですの?」

「ふんっ……安心しろ、その時は若者に任せる。そうであろう、マホ魔導士?」

「うむ……その通りじゃ」



ロランは振り返ると、そこには弟子たちを引き連れたマホの姿も存在した。彼女も捜索に参加し、シャドウとの因縁に決着をつけるつもりだった。



「儂の清い身体にこんな禍々しい痣を刻み折った小僧を許すわけにはいかん。ガロ、エルマ、ゴンザレス……準備は出来ているな?」

「へっ……当たり前だ」

「老師のためならば命でも捧げます!!」

「任せてくれ」

「ほう、中々に頼もしそうな若者達だな」



マホの弟子達を見てロランは感心した表情を浮かべるが、実際の所はエルフであるエルマだけは彼よりも年上なのだが、その事は敢えて誰も指摘せずに王都の捜索を開始された――

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