第795話 大将軍の意地

「俺の……勝ちですね」

「舐めるな……小僧!!」

「大将軍!?これ以上は無理です!!」

「本当に死んでしまいますよ!!」」



ナイの言葉を聞いてロランは怒りを抱き、彼は強化術の反動で痛むはずの身体を起き上げ、改めてナイと向かい合う。その姿にナイは驚き、まだ戦えるのかと思ったが、ロランの身体はふらついていた。


先の一撃でロランも魔力を使い果たしており、普通ならば戦える状態ではない。だが、大将軍の意地なのかロランは双紅刃を構えると、ナイに向けて駆け出す。



「がああっ!!」

「くっ……!!」

「ナイ君、ロラン大将軍、止めるんだ!!」



ナイとロランが武器を振りかざした瞬間、二人の間に何者かが割って入り、それを見たナイとロランは目を見開く。二人の間に割り込んだのはアルトであり、彼を見てリノは驚く。



「アルト!?どうして貴方がここに!?」

「姉上、無事でよかった……二人とも、武器を収めるんだ!!これは命令だぞ、大将軍!?」

「ぐっ……承知しました」

「アルト……どうしてここに?」



ロランはアルトのに対して渋々とだが従い、その様子を見たナイは武器を下ろすと、アルトは安堵した表情を浮かべる。咄嗟に間に割って入らなければ二人ともどうなっていたか分からず、彼は額の汗を拭う。



「やれやれ、死ぬかと思ったよ……二人とも、まずは落ち着くんだ。姉上も安心して下さい、猛虎騎士団は僕達の味方です」

「ほ、本当ですか!?」

「えっ……?」

「……リノ王女様、どうやら誤解させたようで申し訳ございません」



アルトの言葉にリノは驚愕し、ナイは呆気にとられたが、ロランを筆頭に猛虎騎士団の面々はアルトとリノを前にして膝を着く。その態度に全員が驚き、特に警備兵は戸惑いを隠せない。


警備兵達は宰相の指示を受けており、猛虎騎士団は自分達と同じように彼の味方だと聞いていた。しかし、猛虎騎士団は抹殺対象である「リノ」を前にしても手を掛ける所か、その場で膝を着いてしまう。これでは彼等からすれば何が起きているのか全く意味が分からない。



「ご安心ください、王子様。それに王女様も……我々は。貴方達を害する事は決してありません」

「そ、そうですか……」

「なら、どうして戦ったんですか……」

「ふんっ……悪いが、そちらの素性は知らないのでな。それに噂を耳にしていた時から一度手合わせしたいと思っていた」



ロランの言葉を聞いてリノは心底安心した表情を浮かべ、王国最強の騎士団が味方になってくれた事に安堵する。その一方でナイはどうして自分が戦う事になったのかと呆れてしまうが、ロランは悪びれずに答える。


ロランがナイと戦った理由は彼の実力を図るためであり、国境まで届く彼の噂を耳にして一度本気で戦ってみたいと思っていた。そして戦いを得た事でロランはナイの実力を認め、握手を求める。



「猛虎騎士団団長のロランだ。そちらの名前を聞かせて貰おうか」

「……ただの一般人、ナイです」

「ナイ君、この状況で一般人を語るのは流石に無理があるよ」



握手を求めてきたロランにナイは仕方なく手を握り、最初から仲間と分かっていた癖に戦いを挑んできた彼に呆れる。しかし、その実力は本物であり、ロランの強さはテンやドリスやリンを遥かに凌ぐ。



(危なかった……もしも煌魔石がなかったら死んでいたよ。この人、本当に強いんだな)



先の戦闘ではナイが優位に立っていたが、実際の所はナイが魔法腕輪に装着させた魔石がなければ勝つ事はできなかった。モモから貰った煌魔石があったからこそ、ナイはどうにか助かったが煌魔石がなかったら今頃はナイは敗れていただろう。


ロランの凄い所は強化術の反動で現在も肉体が筋肉痛を引き起こしているはずだが、彼は涼しげな表情を浮かべて冷静な態度を振舞っている点であった。大将軍として無様な姿は見せられないという気概を感じ取り、ナイは改めて凄い人物と戦ったのだと思い知らされる。



「猛虎騎士団は僕達、王族の味方になる事を誓ってくれた。これでもう、宰相の好きにはさせないよ」

「そうだったのですね……」

「さあ、一旦王城に戻ろう。そして宰相を……」

「いや、その必要はないぞ」

「その声は……マホ魔導士!?」



何処からか聞こえてきた声にナイ達は驚いて振り返ると、そこには街道に集まった警備兵を押し退け、姿を現すマホの姿があった。彼女の傍にはイリアとイシの姿も存在し、他にも木箱を抱えた兵士の姿も存在した。



「皆の者、回復薬を運んできたぞ。動ける人間は怪我人を運んで治療を手伝ってくれ」

「はいは〜い、作り立ての上級回復薬ですよ。効果は抜群ですから焦らずに飲んでくださいね〜」

「たくっ……無茶をしやがって」



マホが連れてきたイリアとイシが回復薬を製作してくれたらしく、二人が作り出した大量の薬を木箱に詰め込み、すぐに倒れている人間の治療が開始された――

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