第774話 吸血鬼の自白
「はあっ……はあっ……」
「おい、坊主!!大丈夫か!?」
「凄い音がしたぞ、何があった!?」
「大丈夫ですの!?」
リザードゴブリンに止めを刺した後、ナイは聞きなれた声を耳にして振り返ると、そこにはハマーンの店から出てくるガオウ達の姿が存在した。全員がハマーンの店に隠されていた武器庫から装備を調達したらしく、疲労困憊のナイの元に駆けつける。
他の者達はナイが岩砕剣と旋斧を利用した新しい「剣技」によって倒したリザードゴブリンを見て驚愕し、こんな姿をしたゴブリンなど冒険者でもあるガオウやハマーンさえも初めて見た。
「な、何だこいつは……ゴブリン、なのか?」
「むうっ……こんな化物、儂ですら見たことないぞ」
「これはいったい……いや、それよりも大丈夫か、ナイ?」
「ううっ……」
「全然大丈夫じゃありませんわ!!大丈夫ですの!?」
ナイは強化術の反動で激しい疲労に襲われ、慌ててドリスが彼を支える。この際に彼女の柔らかな胸元にナイは顔を埋める事になったが、全身の筋肉痛のせいでそれどころではない。
「いかんな、誰か回復薬は持っておらんのか?さっきの仙薬にあまりはないのか?」
「んなもん持ってる分けねえだろ……仙薬も使い切っちまった」
「ナイ、しっかりしろ!!」
「いいえ、このまま寝かせてあげましょう。ナイさんはよく頑張りましたわ」
疲労のせいで現在のナイは再生術を使う余裕すらなく、ここまでの道中でナイは体力を使い果たしていた。彼の頑張りを目にして他の者達も奮起し、ここから先は自分達がナイを助ける事にした。
「ナイ、お前はよく頑張った。後の事は私達に任せろ」
「すいません……」
「謝る必要はありませんわ。貴方はいずれ私の元で騎士になるのですから……」
「ん?何を馬鹿な事を言っている、ナイは私の騎士団に入るに決まっているだろう」
「あら、先に目を付けたのは私の方ですわよ?」
「この女っ!!」
「止めんかっ、こんな時に喧嘩している場合か!?」
ドリスとリンはナイを取り合うように彼の身体を掴むが、この際にナイは二人の胸元に挟まれる形となる。意識がはっきりと残っていれば役得かもしれないが、既にナイは意識を失っていた。
こんな状況で喧嘩する二人を年長者であるハマーンが𠮟りつけ、その一方でガオウの方は倒れている死骸に視線を向け、これを全てナイが一人で倒したのかと焦る。
(この坊主、また腕を上げたな……これだけの数の魔物なんて俺でも倒しきれないぞ)
街道には無数の魔物の死骸が倒れており、しかも道中でナイは白面や王国騎士を倒した事を考えると、ガオウは悔しい事に彼の実力は既に自分を上回っている事を認めざるを得ない。
大量の魔物に白面や王国騎士を倒せるだけの実力はガオウは持ち合わせておらず、それは彼と同じ黄金級冒険者のリーナやハマーンでも同じことである。
「大した坊主だな……ん?何だこいつ?」
「どうかしたか?」
「いや……このガキ、なんでこんな場所に倒れてるんだ?」
ガオウの言葉を聞いてアッシュは不思議そうに顔を向けると、二人は地面に倒れている子供に気付き、すぐにアッシュはその正体を見抜くと驚愕の表情を浮かべた。
「貴様!!どうしてここにいる!!」
「ぐえっ……!?」
「アッシュ公爵!?」
「いったい何を……その子の事を知ってるんですの?」
「こいつは子供ではない、吸血鬼だ!!」
地面に倒れていたのはナイに気絶させられた吸血鬼であり、この少年の姿をした吸血鬼の事はアッシュも良く知っていた。前に吸血鬼が捕まった後に闘技場の地下に閉じ込めたのはアッシュであり、彼は吸血鬼の首根っこを掴むと無理やりに起き上がらせる。
「さあ、吐けっ!!何故、貴様がここにいる!?貴様も宰相と繋がっているのか!!」
「うぐぐっ……!?」
「ア、アッシュ公爵!!まずは落ち着いて下さい!!」
「そのままだと本当に殺してしまうぞ!?」
「外見に惑わされるな!!こいつは魔人族だ、この程度で死にはしない!!」
アッシュは全力で首元を締め付けると吸血鬼は苦し気な表情を浮かべ、慌ててドリスとリンは止めようとするが、アッシュは聞く耳を持たない。
彼は吸血鬼の顔面を掴み、そのまま地面に押し付ける。返答によっては彼はこのまま吸血鬼を殺しかねない迫力を放ち、吸血鬼は観念したように鳴き声を漏らす。
「ゆ、許して……許してください!!」
「許してほしいのならばお前の知っている事を全部話せ!!どうやって牢から抜け出した!?今回の騒ぎもお前の仕業か!?」
「は、はい!!そうです、僕が魔物を操って脱走したんです!!でも、それは命令されたからで……」
「命令だと……いったい誰だ!?」
「わ、分からない!!そいつは全身が黒い靄みたいのを纏っていて姿が見えなかったんだ!!嘘じゃありません!!」
「黒い靄だと……」
「まさか……シャドウ!?」
少年の告げた人物の特徴を聞いて今回の闘技場の騒動の一件がシャドウが引き起こした事が判明し、この時にドリス達も遂に宰相とシャドウの繋がりに気付いた――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます