第775話 計画の最終段階

――同時刻、王都の王城では宰相は国王の代わりに兵士達の報告を聞いて対処を行う。騒動を引き起こしている張本人であるにも関わらず、彼は迅速に行動を行う。



「宰相!!一般区の隔離を完了しました!!工場区の方も間もなく終了するとの事です!!」

「住民の避難も問題なく進んでおります」

「そうか……南門の状況はどうなっておる?」

「アルト王子を人質にした盗賊は現在逃走中です!!」

「王子だけは何としても取り返せ、盗賊の方は見つけ次第に始末しろ」



兵士からの報告を受けた宰相は表向きは事態の解決のために動いているが、実際には騒動を引き起こしているのは彼自身であり、これらの指示も全て宰相に都合がいいように進んでいる。


国王が目を覚ますまでの間は宰相が指揮権を持ち、バッシュもリノもアルトも居ない状態では彼を止める人間はいない。宰相としてシンは王都で起きた騒動の解決に尽力するが、実際は彼の一人芝居に過ぎない。



(もう間もなくのはずだが……)



宰相は空を見上げ、もうすぐに昼を迎えようとしている事に気付く。この時に城壁の方で見張りを行う兵士から報告が届く。



「吉報です!!もう間もなく、猛虎騎士団が帰還するそうでございます!!」

「そうか、遂に帰って来たか」

『おおっ!!』



猛虎騎士団が帰還するという報告に王城内の兵士や家臣は喜びの声を上げ、王国内でも最強の王国騎士団が戻ってくるという事であればこれ以上に心強い存在はいない。しかし、喜んでばかりではいられず、宰相は計画の最終段階を迎えようとしている事を察する。




――猛虎騎士団が到着する前に宰相はシャドウと連絡を取り、彼に計画の最終段階を迎えた事を知らせる必要があった。猛虎騎士団のロランはこの国では最も国王と民衆からも信頼が厚いが、更に彼を「英雄」に仕立て上げるために宰相はシャドウを利用して最強の「敵」を用意させていた。




英雄とは人々に崇められる存在でなければならず、その英雄を作り出すには必然的に人々を脅かす存在を用意する必要があった。そのために宰相はシャドウに命じて彼に二つの死体を用意させる。


これからシャドウは死霊術を行使し、最強の二人の剣士を蘇らせる。どちらもかつてはこの国どころか他国にも名前が知れ渡った有名な人物であり、現代最強の冒険者であるゴウカでさえも討ち取れる力を持つと宰相は確信していた。



(頼んだぞ、シャドウよ……これを成せば儂の役目は終わる、その時は――)



宰相は自分が役目を終えた後の事を考えようとした時、彼の前に思いがけない人物が姿を現す。



「宰相、随分とご機嫌のようじゃな。こんな時だというのに……」

「……何?」



声が聞こえた方向に宰相は顔を向けると、そこに立っていたのはこの場には存在しないはずの人間だった。否、正確には彼女は人間ではなく森人族であり、宰相の前に現れたのは魔導士であるマホだった。



「おおっ、マホ魔導士!!お戻りでしたか!!」

「魔導士殿が来てくれた!!これで安心できますな!!」

「しかし、今までいったい何処に居られたのですか?」

「うむ、こちらも色々とあってな……遅れて申し訳ない」



マホが現れるとその場に存在した兵士と家臣は歓声を上げ、魔導士であるマホが来てくれただけで心強い。しかし、宰相はマホが現れた事に動揺を隠せず、報告によれば昨日の晩にマホは王城へ向かう馬車から逃げ出して姿を消したと聞いていた。


聖女騎士団と行動を共にしていたマホは白猫亭を見張っていた警備兵を騙し、馬車で王城へ向かう途中で兵士達を気絶させ、そのまま姿を消したとだけ宰相は聞いていた。それにも関わらずにマホがこの王城内に存在する事に宰相は戸惑いを隠せない。



(何故、この者がここにいる……!?)



宰相の勘ではマホは市街地に身を隠していると思ったが、王城に向かう馬車から姿を消したにも関わらず、堂々と王城に戻ってきている事に宰相は動揺を隠せない。しかも現在のマホの顔色を確認する限り、不思議な事に彼女は体調を回復していた。



「マホ魔導士、お身体の方は……」

「うむ、見ての通りじゃ。完全に回復したわけではないが、これならば十分に私も戦えるぞ」

「おおっ、それは心強い!!」

「頼りにしてますぞ、魔導士殿!!」

「はっはっはっ、調子のいい奴等め」



マホは本当に体調不良から隊治ったらしく、騒ぎ立てる家臣や兵士を前にして余裕の笑みを浮かべ、それが演技のようには見えなかった宰相はすぐにある結論に至る。彼は拳を握りしめ、近くに隠れているであろう人物を呼び出す。



「イシ!!イリア!!姿を現せ!!」

「さ、宰相!?」

「急にどうされたのですか!?」



イリアの名前を口にした宰相に他の者が驚くが、そんな彼の態度を見てマホは表情を一変させ、彼女は指を鳴らす。すると何処からかイリアが姿を現し、更に彼女の隣にはイシも立っていた。

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