第773話 リザードゴブリンとの死闘

「はあっ、はあっ……た、助かった。そうだ、あいつは……!?」

「シャギャアアアアッ!?」



ナイはどうにか白炎で身体に纏わりついた黒炎を消す事に成功すると、改めて身体を起き上げてリザードゴブリンの様子を伺う。リザードゴブリンは身体に纏わりついた黒炎を掻き消そうとするが、いくら暴れた所で黒炎は消す事は出来ない。


黒炎を消すにはナイのように聖属性の魔力で対処するしかなく、仮に水中に飛び込んだ所で黒炎は消える事はなく、リザードゴブリンの肉体を燃やし尽くすまで離れる事はない。勝利を確信したナイだったが、ここでリザードゴブリンの身体に異変が起きた。



「グギィイイッ……!!」

「何だ……!?」



リザードゴブリンの身体に突如として亀裂が走り、やがて背中の部分から何かが飛び出してきた。それを見たナイは驚愕するが、直後にリザードゴブリンの身体が焼け崩れる。


ナイはリザードゴブリンを倒したのかと思ったが、身体が完全に焼け崩れる前に抜け出した存在を思い出し、視線を向ける。すると、そこには垂直の壁に張り付くリザードゴブリンの姿が存在した。



「シャギャアアアッ!!」

「なっ……まさか、脱皮したのか!?」



信じがたい事にリザードゴブリンは脱皮した事で身体に纏わりついていた炎を消し、それどころか今までに追っていた傷が完全に消えていた。脱皮を果たしたリザードゴブリンは地上に着地すると、改めてナイと向き合う。



「シャギャアアッ!!」

「くそっ……いい加減にしろよ!!」



脱皮を終えた後のリザードゴブリンは更に体格が大きくなっており、ナイに目掛けて鋭い爪を振り払う。その攻撃に対してナイは旋斧で受け止めようとしたが、先の攻撃でもう黒炎は刀身から消えていた。


巨人族の如く巨大化したリザードゴブリンの爪が旋斧に触れると、その圧倒的な力はゴブリンキングさえも想像させ、ナイは吹き飛ぶ。



「がはぁっ!?」

「シャギャアアッ!!」



脱皮した事で怪我も感知し、更に力を増したリザードゴブリンは容赦なくナイに猛攻を仕掛け、地面に転がり込んだナイに目掛けて跳躍し、その巨体を生かして押し潰そうとした。



(まずいっ!?)



上空から近づいてくるリザードゴブリンを確認したナイは押し潰されると判断し、再び強化術を発動させて逆に飛び込んできたリザードゴブリンに対して旋斧を突き刺す。



「うおおおおっ!!」

「ガハァッ!?」



今度はリザードゴブリンの方が吹き飛び、旋斧を受けた箇所の鱗が剥がれ落ちて血が滲むと、リザードゴブリンは地面に転がり込む。一方で強化術を発動させたナイは先ほど手放した岩砕剣を回収し、向かい合う。



「このぉおおっ!!」

「シャギャアアアッ!!」



リザードゴブリンに対してナイは両手の大剣を振りかざし、切りかかる。その攻撃に対してリザードゴブリンも両手の爪で応戦し、お互いに斬り合う。


より力を増したリザードゴブリンと強化術を発動させたナイの力は全くの互角であり、体格はリザードゴブリンが上回るが、ナイの場合はリザードゴブリンと違って技術を身に付けており、足払いを行う。



「ふんっ!!」

「シャアッ!?」



足元を崩されたリザードゴブリンは倒れ込み、そのままナイは両手の大剣を振り下ろそうとした。だが、それに対してリザードゴブリンは咄嗟に尻尾を伸ばしてナイの身体に放つ。



「シャアアッ!!」

「ぐふぅっ!?」



尻尾を腹部に受けたナイの身体はよろめき、その間にリザードゴブリンは倒れた状態から口元に火炎を迸らせ、吐息を放つ準備を行う。だが、それに対してナイは咄嗟に左腕の腕鉄鋼に視線を向け、フックショットを放つ。



「アガァッ……!!」

「させるかっ!!」



フックショットを発射したナイは腕鉄鋼に内蔵していたミスリルの刃がリザードゴブリンの口元に放ち、喉から放たれようとしていた火炎はミスリルの刃に邪魔されて口元で誘爆してしまう。



「ガフゥッ!?」

「うおおおっ!!」



火炎によってフックショットは焼き切れてしまったが、その隙を逃さずにナイはリザードゴブリンに目掛けて二つの大剣を重ね合わせ、同時に地属性の魔力を流し込む。




――この時にナイは岩砕剣を前に出し、その後ろに旋斧を押し込む。岩砕剣は地属性の魔力を吸い上げる程に重量を増し、その一方で旋斧の場合は地属性の魔法剣を発動させると刃の周囲に重力を放つ。




重量を増加した状態の岩砕剣に更に旋斧が加わる事により、瞬間的にだが凄まじい一撃を繰り出す事が出来る。旋斧の刃がリザードゴブリンに叩き込まれた瞬間、リザードゴブリンの断末魔の悲鳴が響き渡った。

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