第764話 白猫亭の攻防

「――でりゃあああっ!!」

「ま、待て……うわぁあああっ!?」

「ごめんねぇええっ!!」

「うぎゃあああっ!?」

「ウォオオンッ!!」

「いぎゃあああっ!?」



その頃、白猫亭の前では警備兵を相手にリーナ、モモ、ビャクが突っ込み、建物の中に乗り込もうとしていた。外の騒ぎに気付いたテンとルナとエリナは驚いた様子で外を見ると、そこには建物の中に入り込もうとするモモの姿があった。



「テンさん!!薬持って来たよ〜!!」

「モモ!?どうしてあんたがここに……いや、それはいい!!よくやったね!!」

「ま、待て!!その娘を捕まえろ……うわぁっ!?」



建物に向かおうとするモモを警備兵が止めようとした時、何処からか矢が放たれてモモと警備兵の間に突き刺さる。それだけではなく、建物の裏手からも警備兵の悲鳴が響き渡り、ランファンの声も聞こえてきた。



「ふんっ!!」

「ぎゃああっ!?」

「な、何だお前は……うぎゃっ!?」

「ひいいっ!?」



裏側からも警備兵の悲鳴が聞答えた事で即座にテンは先の夜に外に出したヒナ達が無事にランファンと合流した事を悟り、ここで彼女は動ける人間に指示を出す。



「よし、あたし達も行くよ!!ゴンザレス、ガロ!!ここは任せたよ!!」

「お、俺達が!?」

「ああ、分かった」



白猫亭の守備は一緒に宿に泊まっていたゴンザレスとガロに任せ、テンは退魔刀を抱えてルナと共に駆け出す。エリナも弓を構え、何処からか魔弓術を駆使してエルマも援護を行う。


白猫亭の周囲にて乱戦が繰り広げられ、その様子を近くの建物の宿から望遠鏡で見下ろす影があった。それはヒナであり、彼女は白猫亭の様子を見て冷や汗を流す。



「うわぁっ……凄い事になってるわね。警備兵の人に同情するわ」

「うららららっ!!」

「ぎゃああっ!?」

「な、何だこのチビ!?」

「つ、強い……ひいいいっ!?」



ルナが戦斧を振り回しながら警備兵を追い掛け回し、この際にヒナが様子見している建物を通り過ぎる。その様子を見てヒナは苦笑いを浮かべるが、直後に彼女は殺気を感じて振り返ると、一人の白面が姿を現す。



「ここに隠れていたか」

「白面!?どうしてこんな場所に……」

「……落ち着け、俺だ」

「えっ!?その声は……シノビさん!?」



白面の下から聞こえてきた声にヒナは驚くと、白面に化けていたシノビが顔を露にして彼女と向かい合う。シノビが自分の前に現れた事にヒナは驚くが、彼は羊皮紙を取り出すとヒナに渡す。



「お前の仲間にこれを渡してくれ、姫の居場所と状況を記している」

「えっ!?あの……」

「悪いが俺はすぐに戻らなければならない……後は任せたぞ!!」

「ちょっと、シノビさん!?」



一方的に羊皮紙を渡して去っていくシノビに対してヒナは驚愕するが、止める暇もなく彼は立ち去ってしまう。呆然とヒナは渡された羊皮紙に視線を向け、中身を確認する。


羊皮紙はこの王都の地図が記されており、現在のシノビの隠れ家が記されていた。その隠れ家にはリノとマホが隠れている事も記され、そしてゴウカが待ち受けている事も記されていた。



「ちょ、何よこれ……こんなの、どうすればいいのよ!?」



ヒナはシノビに問い質す前に彼は姿を消しており、どうやら白面に化けて街を移動している様子だった。ヒナは渡された羊皮紙を手にして頭を抱えるが、一先ずは白猫亭の皆に伝える必要があった。



「ガブゥッ!!」

「あだだだっ!?助けてぇっ!!」

「ビャクちゃん、めっ!!そんな人を食べたらお腹壊すよ!?」

「クゥ〜ンッ(反省)」

「おらぁっ!!王都の警備兵の癖にそんな程度の力しかないのか!!」

「うりゃりゃりゃっ!!」

「ひいいいっ!?」



地上の方は正に阿鼻叫喚の渦と化しており、形勢は完全に逆転していた。1000を超える兵士だろうとこちらには一騎当千の強者揃いであり、兵士達は瞬く間に蹴散らされ、退散を余儀なくされる。


だが、これでテン達は完全に宰相を敵に回してしまい、本格的に狙われる事になるだろう。もしも宰相が王都の守備軍を向かわせた場合、流石のテン達でもどうしようも出来ない。



「テンさん、これ!!シノビさんからの手紙よ!!」

「ヒナ!!あんたも無事だったんだね、早く降りてきな!!」



ヒナの声を耳にしたテンは彼女が無事である事を喜び、建物の屋根にいるヒナに声を掛けた。ヒナはテンの言葉に頷き、降りようとした途端、背後から気配を感じ取った。



『お前等はもう邪魔だ』

「えっ……」

「ヒナ!?そいつから離れなっ!!」



声が聞こえたのでヒナが背後を振り返った瞬間、そこには予想外の人物が立っていた。その人物は全身を闇属性の魔力に覆われ、姿を隠していた。それを見たヒナは目を見開き、呟く。



「シャドウ……!?」

『これは貰っていくぞ……あばよ』

「きゃあっ!?」

「ヒナちゃんっ!?」

「そんなっ!?」




シャドウはヒナがシノビから受け取った手紙を奪い取ると、彼女を突き飛ばす。建物のから突き落とされたヒナを見て慌てて地上の人間は助け出そうと駆け出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る