幕間 《英雄か、悪鬼か》

――かつて獣人国と巨人国は大きな戦争を引き起こし、優位に立っていたのは巨人国だった。当時の巨人国は世界最強の国家と呼ばれ、その圧倒的な武力で獣人国を攻め滅ぼそうとしていた。


当時の巨人国の軍隊を指揮していたのは「黒兜」の異名を誇る将軍であり、彼は漆黒の鎧を纏った巨人族であり、和国の崩壊後に巨人国が受け入れた鍛冶師が作り出した鎧装備を身に付けて戦った。


当時の巨人国は和国の優秀な鍛冶師を招き入れ、彼等に最高の装備を作り出させ、それを身に付けて獣人国へと攻め入る。その結果、黒兜が率いる軍隊は和国の鍛冶師が作り出した優れた装備のお陰で獣人国の軍隊を圧倒し、追い込む。


このまま獣人国が滅ぼされるかと思われた時、一人の男が巨人国の軍隊に立ちはだかる。その男は獣人族の勇士と名高い剣士であり、彼はある魔物を討伐して新しい力を手に入れた。




獣人国の勇士の名前は「モモタ」と呼ばれ、彼は元々は和国から訪れた人間と獣人族の間に生まれた戦士だった。父親は若い時に和国から訪れた優秀な鍛冶師であり、母親は獣人国の将軍だった。


父親は息子をモモタと名付けた理由は和国に伝わる童話の主人公の名前を参考にし、彼のために自分の生涯を費やして作り上げた名刀「ムラマサ」を渡す。父親は早くに死んでしまったが、モモタは父親の残したムラマサを手にして母親を見習って獣人国に仕える。


モモタは優秀な戦士として育ち、瞬く間に彼は母親と同じ将軍に昇格した。しかし、ある時に獣人国に「オーガ」と呼ばれる魔物が出現し、彼は自分の部隊を率いて討伐へ向かう。




結果から言えばオーガの討伐は果たされたが、モモタの部隊は壊滅し、彼は一人だけ生き残った。仲間が犠牲になり、生き残ったモモタも酷い怪我を負った。そんな彼の事を民衆は「獣人国一の勇士」と崇め、国王も信頼に置く。




しかし、その勇士の評判が一変する大事件が発生した。それは巨人国の軍隊が遂に獣人国の王都まで迫り、籠城に追い込まれてしまう。巨人国の軍隊は王都を包囲し、兵糧攻めを行う。


一か月近くも王都は包囲され、食料が尽きた事で兵士や民は痩せ細り、餓死者も現れた。このままでは獣人国が滅びると悟ったモモタは覚悟を決め、オーガを倒した時に習得可能な技能を身に付ける事にした。



『陛下、母上、亡き父よ……私はこの国を救うためならば悪鬼となりましょう』



モモタは自分が悪鬼と化す事を承知で彼はオーガを倒した際に覚えられるようになった「狂化」の技能を習得した瞬間、変貌した。モモタは興奮状態に陥ると見境なく暴れ回り、信じられない力を発揮した。


王都を取り囲んだ巨人国の軍隊に対してモモタはたった一人で攻め込み、圧倒的な力で次々と巨人を打ち倒す。その強さを恐れた巨人国の軍隊は撤退を余儀なくされ、こうして獣人国は窮地を脱した。




――しかし、巨人国の軍隊が立ち去った後もモモタは暴れ続け、彼を止めようとした他の獣人族の仲間達も手を賭けた。モモタは圧倒的な力を得る代償に人としての理性を完全に失い、暴れ狂う獣と化す。




敵味方関係なく殺戮を行うモモタだったが、いつしか体力が尽きてしまい、彼は立ち尽くしたまま絶命した。その様子を見ていた者は彼を恐れ、最早「英雄」と呼ぶにはあまりにもモモタは血に塗れ、彼の周囲には死体が倒れていた事から「狂戦士」として後々の時代まで語り継がれる事になった。





「――これが狂戦士の伝説だ。恐らく、ナイ君がこの狂化の技能を覚えた場合、君の意思に関係なく能力は発揮される。そして能力が発動する条件は……興奮する事だろう」

「興奮する事……」

「つまり君が怒ったり、激しい運動などを行えば狂化は自動に発動して理性を失い、暴れ狂うと化す。だから何があろうとこの能力だけは覚えてはいけないよ」

「……そんな恐ろしい技能があったなんて、知らなかったよ」

「ああ、僕も話だけは聞いた事はあるが、まさか本当にこんな技能があるとは思いもしなかった」

「でも……その話を聞く限りだとモモタという人は国を救うために戦ったんだよね?なのに狂戦士だなんて……可哀想だよね」

「うん……そうだね」



ナイはモモタの話を聞いて切なく思い、彼はあくまでも国を守るために狂化の技能を覚えた。しかし、その力を制御できずに結局は敵だけではなく、味方までも手に掛けてしまった。


アルトの話を聞いたナイは彼の言う通りにこの「狂化」の技能だけは覚えない様に心掛ける。しかし、もしもモモタのように追い詰められた場合、ナイはこの技能を覚えるべき時が来るかもしれないのかと考えてしまう――

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